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サイコパスなエズラ・ミラー『少年は残酷な弓を射る』

メインの弓を射る少年を演じたエズラ・ミラーは注目株。前回ご紹介したシャイリーン・ウッドリーとともに今年のカンヌ映画祭でショパール新人賞を獲得、これから顔を見ることも多くなりそうだ。

2011年ロンドン映画祭の『少年は残酷な弓を射る』会見で、エズラは「またサイコパスだよ」と笑っていた。というのは、2008年同映画祭に参加した『Afterschool』でもサイコパス役だったから。忘れ難い結末とともに、鮮烈なデビューを飾ったエズラも、しっかり刻み付けられた。日に当たっていないような白さと細さは、ちょっと病的な役柄にピッタリだ。

『Afterschool』は『少年は残酷な弓を射る』に比べれば、小ぶりな低予算映画だ。エズラが演じた悩み多き少年は、思春期特有の悩みを抱えた、どこにでもいるような少年に見える。だが実は…という最後が衝撃だった。
  そのイメージが強烈で、『少年は残酷な弓を射る』のエズラを見ると、あの少年がパワーアップして戻ってきたと錯覚しそうになる。もちろん、続編でも何でもない、全く別のお話だが。でも、デビュー作でのサイコパス役があってこそ、今回の役がつかめたとは言えそうだ。

『少年は残酷な弓を射る』の少年は、もう最初から普通じゃない。子役が演じるオシメをあててる頃から既に邪悪だ。一昔前のホラー映画『オーメン』に登場した悪魔の申し子ダミアンなみの邪悪さ。
  我が子と自然なつながりを持てない母親を、ティルダ・スウィントンが演じている。天使役などもこなす、人間離れした雰囲気の女優さんだけに、馴染まない感じをうまく表現している。
  そんな母親が世間から後ろ指差されつつ1人暮らしている現在から、初めての子どもを授かった時まで戻る物語は、いったい何があったのかという1点に向けて進む。所々で使われる、不安を掻き立てるような赤い色が、印象的だ。
  まるで母親になつかない子どもが、そのまま距離を縮めることなく大きくなってしまうという異常事態。原題は、話題を呼んだ原作小説と同じWe need to talk about Kevin。 私たちはケビン(息子)のことを話さなくてはという簡単なフレーズに、切迫した意味を持たせていて、うまい。

サイコパスと呼ばれるような人たちは、ケビンみたいに生まれつき皆と違っているんだろうか?それとも『Afterschool』の少年のように、ある時に芽生えた間違った志向が、たまたま実行できてしまった結果そのままいってしまうものなんだろうか?
  しばしサイコパス考にふけってしまったエズラの2本。もともと美少年だし、二枚目役もやっているようだが、エズラには、これからも底冷えのするようなサイコパス役を期待したい。

『少年は残酷な弓を射る』6月30日公開 ■ ■ ■

孤独に暮らす女性(スウィントン)に今も浴びせられる嫌がらせ。わかりあうことのできなかった息子(ミラー)が起こした、全てを変えてしまった事件とは?

 監督 リン・ラムジー
 出演 ティルダ・スウィントン、エズラ・ミラー ほか

2012.6.28 掲載

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