女性をちゃんと描ける男性監督はえらい。
例えば、もうすぐご紹介予定の『家族の庭』のマイク・リー監督。女性主人公の日常をしっかりと描き出した名作の数々があるイギリスの巨匠だ。リアリティのある女性が描けるのは「映画、文学ほか様々なことから学んだ」からという。
吉田光希監督は、同様の質問に「自分がその立場ならと考えた」と答えた。
『家族X』の主役である主婦(南果歩)のたたずまいには、説得力がある。家族で囲むこともなくなった食卓を整え続ける、おとなしく几帳面な主婦。近所の押しの強い主婦から、ウォータークーラーを買わされたりもする。ほとんどの時間、自分1人いるだけの家では、無用の長物と化すことが目に見えている代物だ。
一つ屋根の下に暮らしながら、互いに無干渉な家族には会話もない。夫(田口トモロヲ)は職場で戦力外、息子(郭智博)は社会で居場所を見つけられずにいるフリーターだ。皆が苦しい立場にいるが、その立場がわかる同僚のいる夫や、時に母に怒りを表す息子に比して、主人公の苦しさはひたすら内向していく。
ウォータークーラーの水が換えられることもなく腐っていくのをはじめ、明らかな家の変調、主婦の変調のサインが映し出されていく。静かに積み重なっていくサインと、それに家族の誰も気づかないのが、二重の怖さだ。
と言っても、ホラーに転じるようなことはない。この主婦が向かう先がいかにもつつましい主婦らしいのが、また泣かせる。
ささやかな日常が少しずつ崩れていく様子を淡々と見せながら、近づくクライマックスを予感させるのがお見事。南はじめ、田口、郭も、動きも台詞も少ない中で、それぞれのつらさを醸し出して見せる名演だ。
3.11には、多くの人が、いの一番に家族の安否を確認した。
中には、それが久しぶりの連絡となった人もいる。危機的状況が訪れなければ、その存在を気にかけることがなかったとも言える。
『家族X』の一家も、家族の要であった主婦が壊れていくことがきっかけで、互いの存在に初めてのように目を向ける。それがこの家族の再生の始まりのように感じる。
誰もとらないことがある食事を作り続け、チリ1つなく家を保つ主婦(南)。仕事で手一杯の夫(田口)と、口もろくにきかないフリーターの息子(郭)にとっては、家はほぼ寝るためだけの場所だ。その孤独で張りのない生活に次第に追いつめられていく主婦は…。
監督 吉田光希
出演 南果歩、田口トモロヲ、郭智博 ほか
|
2011.9.25 掲載
|