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必須の殺人『エッセンシャル・キリング』

このところイギリスはニューズ・オブ・ザ・ワールド紙(以下NOTW)の盗聴事件でもちきりだ。168年続いたNOTWは廃刊、癒着があった警察ばかりでなく、NOTW他を率いるメディア王ルパート・マードックと政界との関係も問われる騒ぎ。

騒動の発端となったのは、2002年に殺害されたミリー・ダウラーちゃん(13歳)の留守電の盗聴が明らかになったこと。盗聴したうえ、もっとメッセージが入る余地を作るため、残っていたメッセージの削除までしたという。それがガーディアン紙に掲載されて1週間もしないうちにNOTW廃刊となったから、非難の大きさもわかろうというもの。

とは言えNOTW盗聴騒ぎは今に始ったものでもない。2006年にはウィリアム王子への盗聴で逮捕者も出したし、最近でもシエナ・ミラーに訴えられている。が、ミリーちゃんの件まで、そこまでの怒りは覚えなかった。同じ盗聴の被害者でも、王族やセレブというのは同情しにくい人たちだ。

そういう自分の不公平さを、『エッセンシャル・キリング』でも見つけてしまった。
  行く手を阻む者を殺さなくては、自分が殺されるかもしれない男(ヴィンセント・ギャロ)が主人公で、殺戮シーンもある中、ショックを受けたのが授乳中の母親が襲われるシーンだった。
  飢えた男が、ほかに人もいない雪道で、赤ちゃんに乳を飲ませる太ったお母さんの空いた片乳にむしゃぶりつき、口周り白く乳だらけにして顔を放すと、お母さんは動かなくなっている。
  電動ノコギリで切られるきこりなど、もっと無残な目にあう人もいるのに、それにもまして、いけないことと感じてしまうのは、母と赤子の組み合わせを犯すべからざる聖域のように考えているから?可哀想と思う気持ちには大分えこひいきが混じるようだ。

というのが自らの偏りを再認識した部分だが、まだまだ、たくさんのことを考えさせられる映画。
  あえて場所を明かさず、男の素性さえわからなくしていることで、どこかの陣営のプロパガンダに落ちることなく、人間そのものを見せる。
  ロンドン映画祭での上映前のあいさつで、どうだ見てくれ!と言わんばかりの自信にあふれていたポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ監督会心の作品。

『エッセンシャル・キリング』7月30日より順次公開 ■ ■ ■

砂漠の地で、アメリカ兵に捕らえられた男(ギャロ)は、護送中の事故で脱出、雪深い国を逃げ惑う。飢え、傷を負い、言葉も通じぬ国を、死に物狂いで行く男。言葉を発さず演技するギャロのヴェネチア映画祭最優秀男優賞ほか映画賞多数を獲得した。

 監督 イエジー・スコリモフスキ
 出演 ヴィンセント・ギャロ、エマニュエル・セニエ ほか

2011.7.30 掲載

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