ビートルズ派?それともストーンズ派?なんて、その昔、ロックファンを区分けする質問があったが、イギリスでは、ローチ派?それともリー派?と問われることもある。言わずと知れたイギリス映画界の2大巨匠だ。
イギリスの庶民を描かせたら甲乙つけがたい両巨匠だが、『秘密と嘘』から最新作の『アナザー・イヤー』(原題)まで女性描写に優れたマイク・リー監督に対し、『マイ・ネーム・イズ・ジョー』、『SWEET SIXTEEN』と胸に痛い男性像を見せるケン・ローチ監督でもある。
そのローチ監督が本作で主人公にしているのもダメオヤジ。サッカーが大好きなイギリスのおじさんエリックだ。自分ばかりか家族の問題まで背負いこみ頭を抱えるエリック(スティーヴ・エヴェッツ)と、サッカー界のスーパースター、エリック・カントナ(本人)とのコンビネーションが秀逸。
突然目の前に現れたヒーロー、カントナに、最初はうろたえるエリックが、次第に、カントナ相手にいつものボヤキ節となるのも可笑しい。
マンユーでは伝統の背番号7をつけ、“キング・エリック”というニックネームでも親しまれたカントナは、現役引退して久しい今も、やはり、すごい。2人並んでトレーニングするシーンなど、ちょっと走っただけで安定感とか全然違う。うーむ、プロって、たいしたものだなあ。と言っても、エリックのヘナチョコぶりも愛すべきものとして見えるのがローチ監督ならではだ。
全然ヒーローなんかではない我々だって、それぞれの人生でそれぞれの問題を抱えつつも、毎日がんばっているのだ、と思わせてくれる庶民への応援歌になっている。
本作は、ちょうどクリスマスの公開。
欧米では親類縁者一同集って祝うのが一般的なクリスマスは、感じとしては日本のお正月に近い。あまりロマンチックなところはないが、家族や地域コミュニティの暖かさがじんわりとしみてくる本作には、ピッタリの公開時期かもしれない。
写真は、ノルウェーのオスロからロンドンに贈られた64本目のクリスマス・ツリー。
第二次世界大戦時のイギリスからノルウェーへの支援に対する感謝として、1947年から毎年贈られている20mを超える大木だ。クリスマス前後の期間、トラファルガー・スクエアに飾られるのが恒例となっている。
昨年からポエトリー・ソサイエティがベースに言葉を添えている。今年はノルウェーの詩人Nordahl Grieg の、“Peace must be the most unquiet thing in the world”
Unquietという聞きなれない言葉は文語らしい。落ち着かない、混乱した、不穏なというような訳をあてるようだ。平和をその言葉で表わしたのは、戦時を生き、戦線で亡くなったGriegの実感だったのだろう。
それでは、みなさま、よいクリスマス、お正月を。
郵便配達員エリックの目の前に、夢か幻か、ヒーローとするサッカー界のスーパー・スター、エリック・カントナが現れる。様々な問題を抱えるエリックは、カントナの助言を受け入れていくのだが…。
コミカルな展開で笑わせながらも、社会派ローチ監督は、ティーンの妊娠、ドラッグや銃犯罪に簡単に巻き込まれてしまうストリート・ギャングなど、イギリスのワーキング・クラスの問題も取り込んで見せる。
監督 ケン・ローチ
出演 スティーヴ・エヴェッツ、エリック・カントナ、ステファニー・ビショップ ほか
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2010.12.23 掲載
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