この映画を見て、戦車に抱いていたイメージが180度転換。
外からは頑丈でも、こんなに心細い乗り物だったなんて…
従来の戦争ものとはかなり違っている本作だが、まず気がつくのは画面。戦車の中という小さな空間内でのドラマと、その照準スコープから見える丸く切り取られた戦場の様子が、ほぼ全編を占める。戦場全体はほとんど登場しない。カメラのレンズのように時にズームし、時に引いて見るスコープ越しの世界を、戦車の中のたった4人の兵士たちと進んでいく。
そこで描かれる戦車内部は、驚くほどリアルだ。汚水のたまった床、薄暗く狭い空間、外との連絡が絶たれれば、スコープから見える部分で、何が起こっているかを想像するしかない。外に広がっているのであろう恐ろしい光景を思いつつ、わけもわからないまま戦場を行く。指示が届かなくなった戦車は、発砲することもなく、ただ逃げ惑う。そんな状況に置かれるのが二十歳そこそこの兵士たち、まだ少年のような若者もいるのが哀れだ。
「あの小さなスムリクが僕なんだよ」と言うラマズ監督は、この実体験を映画化するのに25年かかった。書こうとすると蘇る生々しい記憶が筆を止めさせた。それまで人に言うことも出来なかったという体験だ。
その映画でベネチア金獅子賞獲得、ほんとうに良かったと思う。
もちろん、つらい実体験だったから賞がもらえたわけではないだろう。狭い空間と狭い画面が単調になるどころか、臨場感、緊迫感を高め、アッと息を飲むような最後までもっていくのは、お見事。
だが、ひるがえって考えると、映画を作らなければ、ラマズ監督は、そのまま誰にも言えず、まだ抱えたままでいたのかもしれない。
イスラエルでは、若者が兵役につくことが義務付けられている。従軍することになった若者が「映画よりひどい」と監督が言う体験を、身の内に溜め込んだまま、その後の人生を送るのだとしたら、戦争とはつくづく酷なものだと思う。
1982年6月、戦場となったレバノンを行く戦車。乗り込んだ4人の兵士たちは、混乱を極める戦線で外との連絡を失い孤立状態に。外界を知る唯一の術となるスコープから覗かれるのは地獄絵図だけ。そんな彼らの行く先には…
監督 サミュエル・マオズ
出演 ヨアブ・ドナット、イタイ・ティラン、オシュリ・コーエン ほか
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2010.12.10 掲載
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