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あふれ出る暗部『白いリボン』

きつく締めつければ締めつけるほど、現れ出でる醜い部分。
  いえ、補正下着からはみ出すお肉の話ではなくて。

ミヒャエル・ハネケ監督作品の特徴を表したいのだけど、かといって、グロテスクな映像を思い浮かべられると、それは違う。ショッキングだが、目をそむけたくなるような映像ではない。それどころか見入ってしまう映像が連続する。

ハサミでつらぬかれた小鳥、燃え上がる納屋、縛られた子ども…本作に登場するショッキングなシーンも、白黒であることも手伝って絵的に美しく、喚起力の強いイメージとなって訴えかける。

2001年のカンヌで審査員グランプリを受賞した『ピアニスト』では、母親と暮らし、性的な部分を押さえつけてきた女性ピアノ教師が、男子生徒に対し常軌を逸していく様が描かれた。昨年、カンヌ最高賞のパルムドールを獲得した本作では、それが村単位で起こる。

ファシズムが台頭してくる時代のドイツで、表向き、有力者たちのもと規律正しく治められているように見える村。だが、連続して起こる奇妙な出来事と平行して、有力者たちの隠された面が描かれていく。その暗部を察知してしまう、解明に乗り出した若い教師も、ヒーローには成り得ない。

人間の暗部をこれでもかというほど、突きつけて見せるハネケ監督、写真の昨年のロンドン映画祭で語った、『ピアニスト』の主人公イザベル・ユペール出演で老いた体の恥ずかしさを描くものという次作には、どんな酷い話(褒め言葉です)になるかとゾクゾクしたものだが…
  その後、似たような映画が既に他所で進行中ということで、それは中止になったというニュース。いかにもハネケ監督らしい題材と思ったのに、うーん、残念。

『白いリボン』12月4日公開 ■ ■ ■

第一次世界大戦直前のドイツの小さな村。何者かが張った針金にかかって医者が落馬する。それを発端に次々と起こる奇妙な出来事の解明に乗り出した若い教師は…というストーリー、謎解きそのものがメインではないのがミソ。

 監督 ミヒャエル・ハネケ
 出演 クリスチャン・フリエデル、レオニー・べネシュ、ウルリッヒ・トゥクール ほか

2010.12.3 掲載

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