今、イギリスではクローネンバーグ1664のテレビ・コマーシャルにモーターヘッドが出ている。腰掛けているレミー、一口飲んだビールを足元におき、ハーモニカの前奏、そして例のだみ声を響かせる。ざわついたパブが一瞬静かになり注目する人々、レミーの足元にあるビールがアップになるとクローネンバーグ1664、というもの。
かっこいいCMだが、うっすら微笑んでしまうのは『極悪レミー』を観ているせいだ。
このCMのかっこよさは、ファンがレミーに見ているかっこよさと同質と思う。渋い、男っぽい、自分のスタイルをつらぬいている、というあたり。
レミーを追ったドキュメンタリーのこの映画でも、そのイメージが裏切られることはない。
ファンには垂涎物のメタリカやフーファイターズのデイブ・グロールとのコラボなども織り込みつつ、モーターヘッドを聞いたことがないような人でも充分楽しめるドキュメンタリーになっている。
ローリング・ストーンズはじめ還暦過ぎても現役ロックン・ローラーが多いイギリス、それを応援する人もまた、けっこうな年だったりもして、まとめてロックン・ロール・ダイナソーなんて呼ばれたりもする。
ロックン・ロールの恐竜というわけだが、レミー・キルミスターはまさにそれ。細身のパンツに長髪、ドラッグにアルコールと、ファッションからライフ・スタイルまで、人がロック・スターに浮かべるクレイジーなイメージそのままで、今年65歳になる。
その恐竜ぶりも愉快なら、いかつい外見を裏切るような顔がのぞくのもいい。
たとえば、4歳の時にひょっこり現れたという息子との関係だ。すっかり大人になった今、父の後を追うように音楽の道を歩んでいる息子からは、父親が大好きだというのが見て取れる。その息子を自分のステージにあげて演奏させたりもする父レミーも微笑ましい。
レミーをあまり知らなかったというグレッグ・オリヴァーに、ファンだといウェス・オーショスキーという2人の共同監督のバランスもよかったのだろう。
生存する最も偉大なイギリス人とガーディアン紙に書かれたこともあるレミー、異論のある人も多そうだが、この映画を見れば、そう書きたくなる気持ちもよくわかる。
大音響ライブでも知られるモーターヘッドのフロントマン、レミー・キルミスターを3年半に渡って追ったドキュメンタリー。音楽と私生活の両方で我が道を行くレミーをあますところなく見せる。
監督 グレッグ・オリヴァー、ウェス・オーショスキー
出演 レミー・キルミスター、メタリカ、デイブ・グロール、ビリー・ボブ・ソーントン ほか
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2010.11.30 掲載
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