まず6月に沖縄、次いで8月6日の広島、9日の長崎の先行上映を経ての全国公開という日程を見ても、反戦がテーマなのは明らかな映画だが、だからといって現代の自分とは無縁と敬遠する人がいたら惜しい。
第60回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を獲得した寺島しのぶが見せるのは、恨み、ルサンチマン、コンチクショウ!という演技。不本意なところで生きている、生きたことがある人なら、すんなり感情移入できるだろう。
だが、共感しても、溜飲を下げることはできない。寺島演じるシゲ子が恨みをぶつける相手が、四肢を失くし、頭部にもひどいやけどを負い、話すこともままならない傷痍軍人の夫なのだ。
人々に軍神とあがめられることにすがって生きているような夫とシゲ子と2人きりの家は、修羅となっていく。
ベルリンでの会見で若松孝二監督は、凄みある怨念をみせた寺島、目の表情とうめき声だけで演じてみせた大西信満の両人を「プロ」という言葉で称えた。
求められたことにきっちりと応えて仕事をする人というニュアンスで使っていたが、それでいくと若松監督こそプロだ。低予算で、なんと12日間で撮りあげた映画だという。
レバノンで死体の山を見たという監督は、充分な資金が集まらずとも、気持ちのさめないうちに作りたかったと話す。戦争の一番の被害者は女性や子ども、普通の人々ということを、少ない予算の中で訴えることができるのが、傷痍軍人の夫と妻の物語だったという。
夫婦は、ただただ悲惨だ。
理屈より、感覚に反戦というテーマが響いてくる。
久蔵(大西)は、四肢を失い、顔面にもやけどを負った変わり果てた姿で戦地から戻る。たくさんの勲章を胸にした久蔵を、村人は軍神とあがめる。軍神の妻として、かいがいしく久蔵につかえるシゲ子(寺島)。だが、はいずり動くことしかできない夫の食欲と性欲を満たすだけの日々のうち、イモムシという言葉を浴びせてしまう。久蔵は…
監督 若松孝二
出演 寺島しのぶ、大西信満 ほか
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2010.8.20 掲載
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