許せない、でも、忘れることもできない。
そんなマイケルのハンナへの思いが軸となって進んでいく物語で、少年の日のマイケルと年上の女性ハンナのめくるめく日々が描かれる前半では、それぞれを演じるデヴィッド・クロスとケイト・ウィンスレットの全裸シーンが多い。
この映画の試写に参加できたベルリン映画祭では、プレス試写後すぐ記者会見という方式で、今しがた裸でベッドにいた2人が目の前にいて、ちょっと恥ずかしい。役者といえども、やはり気まずいのか、それとも、そういった質問を予期してか、まだ18歳と若い新人俳優のデヴィッドは緊張の面持ちだし、ケイトもやや硬い表情だった。
早々に「ベッドシーンはどうでしたか?」と質問が飛び、ケイトが「デヴィッドがとてもプロフェッショナルに演じてくれて、やりやすかった」とにこやかに答えた後は、肩の荷を降ろしたのか、時々笑いも出るような和やかな会見となったのだが、また蒸し返した記者がいた。
「全裸のシーンが多いですが…」というようなダイレクトな質問を発した途端、他の記者たちから非難するようなオウッという声がもれた。もう、いいじゃないか、やめとけよといったところだろう。意外に皆さん、紳士的なのだ。
ケイトの答えは、先ほどのあらかじめ用意していたのであろう優等生的な返答とは少し違っていた。正直言えば全裸シーンは楽しくはないと打ち明けたうえで、6年前に偶然、原作を読み、感動したこと、この物語はナチスにも関連しているが、自分にとってはマイケルとハンナの一生を通してのラブ・ストーリーであることを、順を追って丁寧に説明した後、そのためには「やるしかなかった」ときっぱり言ってのけた。記者たちから拍手が起こった。
これまでノミネートされることはあっても受賞には至ることのなかったケイトがアカデミー主演女優賞を取ったのが、この作品だったことが喜ばしい。
イングリッシュ・ローズと称されるケイト・ウィンスレットは、名実ともにイギリスが誇る女優になったのだろう。
映画の後半、老女となったハンナが、こちらももう中年となったマイケルに、若かりし日と変わらずに「キッド」と呼びかけるシーンがいい。レイフ・ファインズが中年以降のマイケルを演じているのだが、こちらも、苦しい気持ちを演じさせたら、もうこの人で決まり!と思わせる名演だ。
マイケルがどうしても許すことができなかったハンナの犯した罪を、ハンナ自身も許してはいなかったということが最期近くにわかる。ハッピーエンドとはいえないが、後味の悪くない、静かな終わり方もいい。
15歳のマイケルは年上の女性ハンナと出会い、あっという間に恋に落ちる。ベッドでのひと時、マイケルの朗読をハンナが楽しむのが、いつしか決まりごとのようになっていく。家族にも友だちにも秘密にしてハンナのもとへと通うマイケル。だが、ハンナは突然マイケルの前から姿を消してしまう。再会したのは、法学生と被告人としてだった…
数十年を経て、朗読がハンナを支えるマイケルのすべとなっていくストーリーが泣かせる。原作はベストセラーとなったベルンハルト・シュリンク作「朗読者」。
監督 スティーヴン・ダルドリー
出演 ケイト・ウィンスレット、デヴィッド・クロス、レイフ・ファインズ ほか
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2009.6.17 掲載
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