この映画、イギリスではフィール・グッド・フィルムと呼ばれている。
と言っても、ノウテンキに面白いだけの映画ではない。インドのスラム街の貧困、そこにはびこる悪といった暗い面が物語の基盤にある。そのスラムで孤児となり、したたかさも身につけながら、無垢な部分も失わず、幼い日をともに過ごした少女への純愛を貫く主人公を演じているのが、これが映画デビューとなるデヴ・パテルだ。
この映画は昨年のロンドン映画祭のクロージングを飾った。
そこではカメラマンとしてレッドカーペット脇に陣取った。この時、一番端にいた私の方を向いて、しばらく笑顔を作ってくれたのがパテルだった。
カメラマンとして参加する時は、くじ引きなどで行われる場所決めで、後ろの方や端っこの撮りづらい位置になることが多いのだが、撮りたい相手に見つけてもらえることもある。体は正面を向けたまま、頭だけねじって目線をこちらにくれ、撮ったなと思うとスッと正面に向き直る。私の方というより、私のカメラの向こうにいる日本のファンの方に向いてくれたのだと思わせるプロフェッショナルな感じだ。そういうことをしてくれるのは、日本でもよく知られているスターと呼ばれる俳優に多い。たいしたものだと感心する。
パテルの場合は、それとはちょっと違った感じがした。体ごとこちらを向いて、けっこう長い間、ニッコリと笑顔を作っていてくれた。しまいには正面にいるカメラマン達から「正面向いて!正面」と声が飛び、恐縮したほどだ。
レッドカーペットのにぎわいというのは、集まってくる観衆、取材陣ともども、どうも映画の良し悪しとはほとんど関係なく、スターがいるかいないかにかかっているようだ。この映画は、私がその映画祭で見ることができた40本ほどの中でも、ダントツに面白かった。当初から、オスカーにも届くかと期待させるものがあった。だが、ハリウッドスターが1人も出ていない映画で、レッドカーペットに集まったカメラマンの数も少ない中、文字通り毛色が違っているのは私だけだった。イギリスのテレビドラマ「スキンズ」でデビューしたばかりで、まだイギリスの一部でしか知られていないようなパテルは、国外に報じられるのであろうことが純粋にうれしかったのではと思う。
家族といっしょにロンドン郊外に住んでいる18歳のパテルは「ボイル監督と仕事をして家に戻ると、お母さんに、ベッドをちゃんと整えなさいって叱られたりする。それで、地に足がつけていられる」と映画出演と自分の生活について、コメントしている。
しっかり地に足をつけて、普通の子らしさを保ったままで、今度は自分がアカデミー賞を取るようなスターになってくれたらいいな。いつまでも叱ってやってくださいね、お母さん。
『スラムドッグ$ミリオネア』4月18日公開 |
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クイズ番組に出演中のジャマルはミリオンに手が届くというところまできていた。だが、スラム出身でそれほど博識なはずはないと八百長を疑われてしまう。その取調べの中で明かされていく、クイズに答えられた理由にもつながる幼い頃からの暮らしとは…。
監督:ダニー・ボイル
出演:デヴ・パテル、フリーダ・ピント 他
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2009.2.25 掲載
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