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役者バカ-ベニチオ・デル・トロ-

役者バカとして知られるベニチオ・デル・トロ、なかでも『ラスベガスをやっつけろ』の逸話が有名だ。
  100キロを超える巨体だった実在の人物オスカー・ゼタ・アコスタ役で、20キロ近く体重を増やし撮影に臨んだ。
  「灰皿はどこだい?」などと言いつつ、火のついたタバコを自分の腕に押しつけて消したというアコスタのエピソードを知り、それも使った。撮影中、アドリブで"根性焼き"をやったのだ。
  だが、その部分が映画で使われることはなく、その後、しばらく仕事もこなくなった。

ローリング・ストーンズの「エモーショナル・レスキュー」の歌詞でチェ・ゲバラの名前を少年時代に知ったというデル・トロが、ゲバラが家族に宛てた手紙を二十歳頃に読み、その文章に惹かれたのが『チェ』という映画が作られることになった発端。アカデミー助演男優賞を受賞した『トラフィック』のスティーヴン・ソダーバーグ監督と再度組んだ。リサーチと資金繰りに7年費やし、体重も落として役に入った役者バカぶりも、今度はちゃんと評価され、カンヌで俳優賞も受賞している。
  ソダーバーグの最高傑作というものから、退屈というものまで評価が分かれる『チェ』、成し遂げられたキューバ革命の前編も、チェが捕らわれ殺されることとなるボリビアの後編も、取り立てて盛り上げることも、ことさら悲痛にもせず、淡々とした調子で描かれる。あえて感動巨編にしてしまわないことで、等身大の人間チェを浮かび上がらせている。

『チェ』のイギリス・プレミアには、イギリスはじめヨーロッパ各国から取材者が集まった。
  「やあ、ベニチオ」と親しげに話を聞きだしていくベテラン芸能リポーターから、「ボリビア情勢についてどう思いますか?」といった質問を矢継ぎ早に繰り出す硬派な記者までバラエティに富んだ質問者に対し、デル・トロの顔の印象が面白いように変化する。
  眉を寄せ目を細めた例の顔で現れたデル・トロ、スーッと眉が上がると、リラックスして心に浮かんだことをそのまま話しているような印象になる。『チェ』で女性戦士を気遣う時、そんな顔だった。
  あごを引くと、にらみすえるような目になり、ぐっと締まってシリアスになる。『チェ』では、捕らえられ見張り番と直談判する時がその顔。
  質問者に自然に反応しているのだろうが、目の前にオスカー俳優の顔がある、と思わずにはいられなかった。

『チェ 28歳の革命』1月10日〜公開
『チェ 別れの手紙』1月31日〜公開
■ ■ ■

Tシャツやポスターのベレー帽をかぶった精悍な顔でお馴染み、革命のシンボル的存在となっているチェ・ゲバラを、フィデル・カストロとわずか80数名で始めたキューバ革命が成し遂げられるまでの前編、ボリビア革命を目指し銃殺されるまでの後編の2部構成で描いた映画。ちなみに今年はキューバ革命50周年にあたる。

 監督:スティーヴン・ソダーバーグ
 出演:ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル 他

2009.1.16 掲載

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