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人の痛みがわかるようになった。これは僕の大きな財産です

―――「クラッシュ」「リバース」を出した後や講演会などの活動を通じて、たくさんの反応があったと思いますが、自分自身でも予想していなかったこともありましたか?

太田 何千通も手紙がきました。もちろん嬉しかったのですが、それとは別に俺は何のために生きているのかを考えている時期があったのですが、その手紙を読んで、これかなと思いました。「厳しい環境にいる人がまた頑張ろうと思った」とか、「鑑別所にいたんですが高校受験をしようと思いました」とか、新たにスタートをきることにしましたっていうご自分の状況を知らせてくれる手紙が多いんですよ。そういう手紙を見ると、生きる意味、喜びを感じます。大勢の人が喜んでくれるなら、辛い思いをした意味もあるなと。生きる意味を見つけることができましたって、僕も「ありがとう」って言いたいです。

―――事故からの7年間で自分が得た一番貴重だなと思うものは何ですか?

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太田 やっぱり人の痛みがわかるようになったってことでしょうね。プロレーサーというのは、我が儘を美徳とするような、自分が輝くことに関してみんなが祝福してくれるのは当たり前。逆に言うと、そうでないとやっていけない世界だったと思います。華やかな世界にいたため、辛い目にあってる人に目が向かない面はあったでしょうね。僕に手紙を寄せてくれる人、その辛さに共感できる度合いが、事故によって大きくなったなと。これは大きな財産です。

―――それでは、新たに見つけた楽しいことってありますか?

太田 今は写真かな。事故の後何もすることがなかったので、デジカメを買って写真を撮り始めたんです。撮り始めると被写体を探して外に出るようにもなって。『世界でいちばん乗りたい車』っていう、100台の車に乗って感想を書いた本を出したんですが、その本の写真は全部自分で撮ったんですよ。今回の『生き方ナビ』の写真も自分で撮りました。それまで写真のことは何も知らなかったんですが、何かを始めるのにほんと年齢は関係ないなって思いました。結局、趣味も仕事もやろうと思ったときがスタートかなと。

―――これからやりたいものは?

太田 今度は写真集を出したいかな。『生き方ナビ』が売れたら次は…なんて話してるんですよ。何でも面白がってやりたいですね。

―――車以外の写真ですか?

太田 そうですね。僕が今一番興味を持っているのは人間の心です。そういう意味で、自分の心がどうなっているのか探ってみようと思ったのが、ある意味『クラッシュ』『リバース』だったのかもしれません。『世界でいちばん乗りたい車』も、これは車選びの本なんですが、車に乗っていると、造った人の思いが僕らには分かるんです。結局は車を通して造った人間の心に触れるんですね。写真もそうなので、対象は人間です。あまり草とか花とか風景には興味ないんですよね。

―――それでは『生き方ナビ』に載っている新宿のストリートミュージシャンの写真などもご自分で選ばれたんですか?

太田 そうですね。まあ決めて撮るんじゃなく、インスピレーションで撮っています。いつもカメラを持っていて、何か日常のなかでひっかかるときに撮るって感じですね。

―――いま、ご自分の人生は楽しいですか?

太田 そうですね。楽しい以上にわくわく! もちろん不安はいっぱいありますよ。不安もあるけど、ものすごく希望もあります。幸せを見つける能力が身についたんでしょうね。昔は頂上に登っていくことこそが究極の幸せで、お金が入って、海外旅行に行って…って感じだったんですけど、そうじゃなくて、幸せはそれこそそこらに、足元に転がっているってことですよね。さっき言った写真を撮るっていうのも、そこに何か面白いなと思う笑顔があったりとか、これも一つの幸せを見つける証拠写真みたいなものじゃないかと。

―――それは、以前は見過ごしていた光景でしたか?

太田 見過ごしていましたね。スピードのなかで通り過ぎていました。結局、自分がどれだけ幸せって感じられるかが僕にとっては生きていく意味なんですね。どんなに恵まれた環境でも、その人の中で幸せだって感じられなければ、生きていく意味がないわけですから。 そして、「チャレンジすれば変わるよ」ということを伝えていきたい。KORというチームを設立したのは、これからもライフワークとして、チャレンジの素晴らしさを伝えていきたいと思っているからです。


(取材・文/吉永歩)
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