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「チャレンジ」することによって必ず得られるものがある |
―――今回『生き方ナビ』を読んだときに、『クラッシュ』『リバース』の2冊と方向性が変わって、外に向けて、特に若い世代に向けて書かれたと感じたのですが、何故このような本を書こうと思われたのでしょうか?
太田 僕が事故にあったのは30代後半で、病院から出てきたのが40歳。これが微妙な年齢であって、例えば70、80歳だったら「治ってよかったよかった」って言ってすむんだけど、まだここからの人生があるわけで、社会に戻らなければならなかったわけです。一度全てがゼロになってからの社会復帰は簡単ではありませんでしたが、その過程で自分なりに見つけたものが、今悩んだり苦しんだりしている人達の助けになるんじゃないかと思い、なんとか伝えたいと思うようになったからですね。
―――そういう気持ちは、講演活動などで一般の人と話していく中で湧き上がってきたのでしょうか?
アルファロメオチャレンジ関東シリーズ第2戦にて。結果MRクラスにて太田哲也さんは見事優勝!(2005年6月25日 ツインリンクもてぎにて) |
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太田 そうですね。中学生、高校生相手の講演依頼が多いのですが、話をしてみると今の子は当時の僕らよりも大きな悩みを持っているようです。先生方も「昔は『頑張れ』って言えたんだけど、今は先が見えない時代で言えなくなった」と言うんですよ。先生がそう言っているぐらいだから、子どもたちはほんとに先が見えないんだなと思いましたね。
でも、だからと言って、本当に先がないわけじゃないと思うんです。僕の場合、先は見えなかったけど、いろいろ行動してきたことで、ずいぶんと状況が変わってきたわけです。車に乗れるようになったし、自動車評論もできたし、レースにも出られたし。だから、先が見えなくても「行動」することによって先が見えてくるというメッセージを伝えたいって思いました。
あと、社会に対する彼らの不安っていうのが凄くリアルに伝わってきたのも大きかったです。僕も事故によって全部を失い、ある意味、一から就職活動をしなければいけなくなったわけで、そういう意味で非常に彼らと共通するものがあり、それを彼らも感じてくれているなって凄く思ったんですね。なので、僕がつかめたものが若い人達に役に立てばいいなっていう思いもありました。
―――今の若い子達は将来のことを何にも考えていないわけではなく、いろいろ考え迷っていると?
太田 中学校で講演をするときに、最初、中学生じゃ悩みなんてそんなにないだろうって思っていたんですけど、講演の後もらった手紙を読んだら、将来に関する悩みとかいっぱい書いてあったんです。その中でも印象的だったのは、「生きることは辛いことだよ」って言葉がみんな印象的だったって書いているんですね。だから、テレビなどでは中高生は何も考えていないように映っているけど、実際はいろいろ悩み考えながら頑張っているんだなと。
―――それは太田さんの中学生時代とは違いますか?
太田 ちょっと違うなと。時代もあったのでしょうが、将来は何となくうまくいくものだって思えていました。だから、むしろ現在の僕の方が、彼らが抱えている将来に対する不安っていうものが、非常にリアルに感じられたってことですかね。
―――今の若い世代の場合、「やりたいことがわからないのが辛い」「何が自分にできるのか考えること自体が辛い」ということをよく聞きますが、太田さんも講演活動されてこのような話は聞かれましたか?
太田 それは凄く悩んでいるみたいです。どうやって希望を持てばいいのかっていうのが、なかなか見えない時代になってきたのかな。僕らの時代でもやっぱり自分が何に向いているのか悩んでいたけれど、何となくどうにかなるよっていう思いや風潮があったと思うんですよ。ところが、今は同じように不安を抱えていても、どうにかなるよって思えない雰囲気が漂っている感じがしますね。でも、そんなことはないんだっていうことを言いたいんです。いくらでもどんでん返しはあるんだよって。そのためにはまずは行動すること。
―――若い人だけではなく、自分が思い描いていた人生設計が崩れてしまったり、非常に厳しい状況にある40代以上の人達にも響く内容じゃないかと思ったんですが。
太田 そうかもしれませんね。実際同年代だからというのもあると思いますが、考えてみると、僕の場合は30代から40代になるところでいきなり仕事がなくなったわけです。特に僕の場合はレーシングドライバーっていう特殊な職業だったので、つぶしがきかない。もちろんレースドライバーにも引退はありますが、その後は監督をやったり、業界の中で生きていけます。僕の場合はそれがいきなり切られたわけですね。でも、家族がいるから落ち込んでばかりもいられない、何とか仕事を見つけなければいけないっていうなかで、どうにか形を見つけてきたっていうのは、ある意味40代でこんなはずじゃなかったって思っている人にも、同じように響くのかもしれないです。
―――今、自殺者で一番多いのが中高年の男性ですからね。
太田 男性は女性以上に脆いというか、社会の中で自分のポジションがないと生きていけないようなところがあると思いますね。そうすると、家族があって生活も出来て、そこに幸せがあったとしても、それは見ないで、生きていけないっていう面がありますよね。
―――自分の中の可能性に気が付かない人が多いんでしょうか。
太田 そういうこともあるかもしれませんね。僕は人間の能力ってそんなに変わらないと思っているんです。ただ、好き嫌いじゃなくて、向き不向きっていうのは確かにあると思います。自分のポテンシャルを活かす環境や方法が見つけられていないケースが多いのだと思います。そういう意味で、全ての人にはまだチャンスがあると思うんですよ。あきらめてしまう前に、何か「チャレンジ」して、自分の可能性を確かめてほしいと。
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