第65回 「教員養成・採用政策の提言」について
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
最近、幼児虐待の痛ましい事件が後を絶ちません。亡くなられたお子さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。
幼児・児童虐待で、ぜひ皆さんにお伝えしたいことがあります。もし「虐待かもしれない」と感じる出来事を見聞きしたら、【0570064000】までお電話をお願いします。これは、全国共通の、「最寄りの児童相談所につながる」番号です。もし虐待が見つからなくても、電話した方が処罰されることはありません。電話をかけることで、お子さんの命を救うことができるかもしれません。この番号は携帯の電話帳に登録、あるいは手帳にメモをお願い致します。
児童虐待に限りませんが、「健康に関することは厚生労働省」、「教育に関することは文部科学省」という縦割り行政の弊害によって、各機関の連携がうまくできていません。有名なことでは、「保育園は厚生労働省」、「幼稚園は文部科学省」と監督官庁が異なるので、「保育園は教育ができない」、「幼稚園は基本的に長時間預けられない」という問題があります。
ただ、実際は幼稚園でも、保護者が共働きなどの理由で、(一部の有名大学付属幼稚園などを除けば)18時頃までお子さんを預かることが一般化しているようです。
また、先月末、大阪府で幼い姉弟が亡くなった事件は、母親の育児放棄(ネグレクト)があり、離婚で母親が引き取ってから、生活がすさんだと報道されています。
離婚の際、未成年の子どもがいれば、親権を父母のどちらにするか決めなくてはなりません。日本では子どもが幼い場合、母親に親権が行くのが一般的なのですが、母親の生活力が低い場合、それは子どもにとって幸せなのでしょうか。
また、シングルペアレントをサポートするシステムを、離婚届提出と同時に役所の窓口で紹介されれば、まだ今回のような悲劇は防げたのかもしれませんが、行政が縦割りですので、そのようなことは恐らく行なわれていないでしょう。
このような状態は、子どもにとっても、保護者にとっても良いものではありません。そこで、子どもに関することは、「子ども省」を作り、出産から教育まで、全ての政策を管轄するようにし、実効性ある政策が各機関の連携を取って行われるようにしてほしいと切実に願います。
ところで、夏休み、お子さんたちはお元気で過ごしていますか。夏休みにだらけ過ぎた結果、2学期の勉強が目も当てられないほど悲惨な結果になることがよくあります。
ただ、むやみに「勉強しなさい」と言うのではなく、たとえば、
「お父さん(お母さん)は○○ちゃんを養うため、仕事でがんばっているんだよ。仕事に行かなかったら、○○ちゃんはご飯が食べられないし、学校にも習い事にも行けなくなるよ。だから、○○ちゃんも、家でできることをして、お父さん(お母さん)をサポートしてほしい」
などと言って、話し合いをし、手伝いなどさせてほしいです。
勉強に関してですが、おすすめ本があります。
1冊目は、「おとなの楽習(がくしゅう)」(自由国民社)というシリーズです。
http://www.jiyu.co.jp/topics/otonanogakushu/series1/series1.html
中学生レベルの基本的内容を説明したもので、お子さんと一緒に読まれると、もしお子さんが学習でつまづいていた場合、解決のヒントが見つかるかもしれません。
2冊目は、この連載元、ロゼッタストーンから出たばかりの「独立のすすめ」です。福沢諭吉の『学問のすすめ』から、現代に生かせる知恵を再編集しています。全文振り仮名つきですので、中学生以上のお子さんと、ご一緒に読まれると良いと思います。
3冊目は、真野栄一・遠藤宏之・石川剛著『みんなが知りたい地図の疑問50』(ソフトバンク サイエンス・アイ新書)です。「Googleストリートビューは地図?」、「自分で地図をつくりたい、どうすればいい?」など、地図の専門家の著者が、オールカラーでわかりやすく説明しています。中学受験で地図に興味を持ち始めた小学生への答え、また、中高生の自由研究のヒントにもなります。
なお、どちらも、私のblogからリンクして購入することもできます。
ここまでいろいろ書きましたが、勉強だけしていて、遊びがないのも、心身のバランスを悪くするので良くありません。きちんと、遊び、息抜きの時間も作って下さい。お困りのことがあれば、ご相談をお待ちしております。
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今回は「教員養成政策の提言」について考えます。なお、第6回、37回と52回連載も併せてご覧いただけたら幸いです。
民主党政権になり、教員養成が大学院まで含めて6年制になる可能性が出ています。このことに関して、私は基本的に賛成です。
なぜなら、大学院で修士号を得た者のひとりとして、大学院では「教授の指導を受けつつ、自発的、自覚的に自ら専門性の高い課題に取り組む」ことが求められ、これは教育現場でも非常に重要だと感じるからです。
どんな仕事も基本的に同じだと思いますが、誰かからの指示を待っているだけではなく、積極的に自分で考えて行動していく必要があります。また、大学院を修了することで、専門性の高い内容を学ぶことができ、それは生徒に教える教材を自分で予習する時などにも、反映されていきます。
そして、大学全入時代を迎えている現在、低レベルな内容、間違った内容を教えても、教員免許取得に必要な単位を取得して大学を卒業すれば、「教員免許を取得することができる」のです(実際に教育実習で、授業内容で間違う学生を目にします)。大学院入学には、(形骸化ではない)入試も必須化すれば、間違った知識のまま大学院に進学することもできなくなります。大学院修了を教員養成の用件にするのは、この面でも重要ではないでしょうか。
なお、現在始まったばかりの、「教員免許更新制度」は、10年ごとに、教員が自費で大学での講義を受けて一定以上の単位を取得する義務があるなど、負担が大きいです。管理職は更新不要など問題も指摘されています。
最新の学問を学ぶことは悪くないと思いますが、ただ学んで終わりとするのではなく、「学んだことを現場に還元させる」ことが重要です。従って、「学んだことを、どう授業に生かすか学内で報告し合うことを義務化する、その代わり受講する講義の数を減らす」、「3年ごとに1つのテーマを決めて研究していく」などの形も良いのではないかと考えます。
次に、大学生時代に、NPO法人、企業でのインターンシップを義務付けます。
教員は「ぜひ教員になりたい」と熱望している人が多いと感じます。団塊世代の大量退職時期に重なり、各地の自治体が「教員志望者支援塾」などを開設し、そういう学生を支援しています。
この動きに何か口を挟むつもりはありません。ただ、学校で勤務していますと、「学校に来る、他業種の方は限られている」ことを痛感します。制服関係業者、教科書出版社、旅行業者、スポーツ用品関係者…いずれにせよ、「先生」と呼んで物を買ってくれるように依頼に来る方々で、対等の関係ではありません。何か欠けている点を指摘してくれる関係でもないのです。
学校、という空間の中で、どんどん「現在の社会が求めることがら」に教員が気づかなくなっても、それを止める手段が現在のシステムでは少ないと感じます。
前回・第64回連載でも書いたように、幼少期から甘やかされ放題にされ、また、自分の都合が最優先されると勘違いしてきた者が、突然、相手の都合を考えるように、などと言われても、対応できないのもある意味当たり前です。少子化の進む現在、若者は貴重な労働力です。その若者を少しでも現在の社会のニーズに合う形で送り出すのは、教員に求められる責任であると私は考えます。
また、就職者の多い高校、商業・農業科など職業科の高校なら別かもしれませんが、最近は少子化で高校・大学とも「出口(=進学先)」の成果が重視され、良い成果を残すことに学校の重点が置かれがちです。生徒はいずれ社会人になるのですから、学業以前に社会人としてふさわしく成長するために、どのようなことを教えるべきか、教員が学校以外の場で学ぶ必要があるのではないでしょうか。
最後に、教員採用の際に免許証の番号の確認を義務化します。
罪を犯し、禁固刑以上の罪が確定した場合、教員免許は失効することになっています。ですが、教員免許は「卒業した大学の都道府県教育委員会」が授与しますし、現在の法制度では、「本人の自己申告以外、発覚する手段がない」のです。
ですので、「A都道府県で罪を犯し、教員免許が失効したのに、B都道府県ではその事実が伝わっていないので、B都道府県で採用された」ということが起こりえるのです。公務員ですと、前科があれば採用はできないのですが、産休代替教員など、そして、教育委員会の権限の及ばない、私立校ならチェックできずに通過してしまう可能性が充分にあります。もちろん、子どもに性的虐待をした教員にも、これは当てはまります!
これは、国公私立すべての学校で、「教員採用をする際に、免許証について有効か、各都道府県の教育委員会に問い合わせ、失効者は採用しない」ことにすれば、防げるはずです。事務手続きは増えますが、犯罪者を再雇用するリスクを考えれば、どちらが良いのかは言うまでもないと思います。
今回は、現時点で私が考える、現在の教員養成・採用で必要だと思う政策を挙げました。他にも必要な点があると思いますが、現場からの声が生かされ、有効性ある政策が実施されることを期待しています。
【今回のまとめ】
- 教員養成を大学院修了の6年制にする。教員免許更新制度は、「最新の学問を学ぶ」機会に変える
- 学生時代にNPO法人、企業でのインターンシップを義務付ける
- 性犯罪者などの再雇用を防ぐため、すべての学校は、教員採用時に各都道府県に教員免許の番号を確認することを義務化する
2010.8.12 掲載
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