ロゼッタストーン コミュニケーションをテーマにした総合出版社 サイトマップ ロゼッタストーンとは
ロゼッタストーンWEB連載
出版物の案内
会社案内

第52回 「教員採用での問題点と改善策」について


皆さんこんにちは。
  前回の更新から1ヶ月足らずのうちに、さまざまな事件が起こり、驚いたり、心配している方も多いことと思います。

7/19未明、埼玉県内で女子中学生が父親を殺害する事件が発生しました。ご関係者の皆さまに、心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。
  事件直後に私が聞いた報道で、「この家庭の保護者は大きな勘違いをしていたのではないか」と感じたのが、母親が「問題のない家庭で、娘は悩みを話すこともなかった」と言っていた、という話でした。

子どもは成長するに従い、その年齢なりに悩みを抱え、そして、周りに助けられながら、解決方法を自分なりに全身で学び取っていきます。悩みを話すことが本当になかったのであれば、それまでの15年間の人生で、「この親に悩みを話しても無駄」と思うことが積み重なって、心を閉ざしていたのではないでしょうか。それは子どもの育ち方として、異常なことです。その結果、最悪の事態に至ったのが残念で、また、女子中学生がかわいそうでなりません。私立中学に通っていたそうですが、経済的に恵まれていても、心の面ではどうだったのでしょうか。

そして、7/23には、群馬県内で男子高校生が暴行を受け亡くなり、元同級生が逮捕されました。ご遺族の皆様に心からお悔やみ申し上げます。

この事件は、携帯電話の「プロフ」と呼ばれる自己紹介サイトでの書き込みが発端のようです。子どもに携帯電話を持たせるのであれば、保護者が危険性をきちんと教えねばなりません。また、大人でさえ書き込みに傷つくこともあるのですから、子どもならなおさらです。小学校から携帯電話、ネットなどの使い方、マナーを教えていかねばなりません。教員でなくて、保護者でITに詳しい方などの講座の形を取ることも工夫次第で可能でしょう。この問題に関しては、回を改めて書ければ、と考えています。

今回は「教員採用での問題点と改善策」について考えます。
  大分県佐伯市で教員採用試験に際して不正(点数の改ざん・水増しなど)が行なわれた事件は、教育委員会幹部の逮捕、子どもの採用を頼んだ地元新聞社幹部の謝罪と処分、また、保護者が不正を働きかけたために合格した当事者の退職…影響はとどまるところを知りません。今後も、「不正合格した者は合格を取り消す」という方針が出ていますが、警察に資料が押収されているので、いつ処分が出せるか見通しが立たない、といった事態にもなっています。今回は小・中学校が事件に大きく関わっていますので、教員の突然の逮捕や退職など、子どもたちはさぞ動揺しているはずで、大変気の毒です。

ですが、この話を最初に聞いた時、多くの教育関係者は、残念ながら、「よくある話だ」と思ったのではないでしょうか。

教員採用試験は、公立・私立とも試験問題・解答例とも非公表が多く、もともと、「不正が入り込みやすい」状態です。また、「信頼できる人を採用したい」という考え方が極端に保守的な方向に進んだ結果、「教員の子どもなら安心」ということになり、教員の子どもや親類などが採用されやすくなってしまっている、とも説明できます。もちろん、そのようなこととは無縁で、実力で採用されている方も数多くいるはずです。
  私立校の場合、「採用する人が決まっていて、形だけ試験をする」と聞いたケースもあります。私はちなみに、コネもワイロも一切使わずに採用していただいています。

採用試験をめぐって思い出すことがあります。私自身も、親戚に公立小学校の校長まで務めた者がいました。公立校で教員を目指すとなれば、採用試験で「親類が教員にいる(いた)か」と尋ねられる、そう聞いていた私は、「親戚だから多額のお礼は不要かもしれないが、それにしても自分の就職で他人に頼みごとをしたりするのはイヤだ」と考え、公立校の教員という選択肢は、大学入学早々には自分の進路から消していました。

また、かつての同級生が、保護者が教員だったので、「自分は筆記(1次試験)さえ通れば、あとは何とかなる」と言っていたのも忘れられない思い出です。ただ、そういう場合でも、適性や実力に問題があったりすれば、採用されないこともあるようでした。

このような状況を、採用する当事者は「教員の子どもなど、信頼できる人を採用して当然」と思っているので、不正はなかなか見つかりません。今回の大分県佐伯市の場合、商品券をもらった教育委員会幹部が、ひんぱんに金券ショップに来て換金するので、「いつも来るあの人はどういう職業なのだろうか」、「教員らしい」、「それはおかしいのではないか」という形で発覚した、と私は聞いています。

そもそも、「合格点に達していない者の点数を水増しして合格させ、本来合格していたはずの者を落とす」ということは、積極的に、公的機関が、「質の低い者が教育に携わることを認めている=能力不足教員などを生み出している」ことに他なりません。

このような不正は、地方の場合出身大学の「学閥」で大きく人事などが左右されることも大きな理由になると思います。地方出身の同僚が、「地元の大学を出ていなければ故郷で教員になれず、首都圏の大学に進学した自分は無理」という話もしています。また、上司が不正をしていても、同じ大学出身の場合、公然としにくいこともあるのではないでしょうか。

教員採用は、各都道府県や政令指定都市の責任なので、文部科学省も指導しかできない(処分はできない)仕組みになっています。
  なお、来年度から実施される予定の、教員免許更新制度でも、校長や教育委員会勤務者など、管理職は免許更新のための講習を免除されることになっています。つまり、不正をしていても、免許が自動的に更新されてしまう可能性もあるのです。免許更新制度については回を改めますが、このような制度は欠陥だと言わざるを得ません。

そして、忘れてはならないのは、地元選出の議員などからも「関係者を教員にするように」口利きがあったと聞いていますが、このような事態は教員採用に限らず、一般の就職などでも起こっていることです。私は、現職国会議員に就職を頼むのなら、数百万円を払わなくてはならない、と、その議員の後援会に入っている方の話を聞いたことがあります(もちろん、すべての国会議員がそのようなことをしているのではなく、清廉潔白に任務を果たしている方も多くいると考えています)。

このような問題点を整理し、私なりに改善点を考えました。
  まず、日本では、積極的に、公的機関が、「質の低い者が教育に携わることを認めている=能力不足教員などを生み出している」土壌があるのです。
  質の低い者が多く携わる限り、日本の教育は良くならず、また、質の低い者に育てられるのですから、子どもたちの可能性や未来にも悪影響を大いに及ぼす
ことも考えられます。
  皆さんにはこの現実を認識していただき、今こそ、このような状況をなくすよう、おひとりおひとりが、ご自分にできることをお考えになっていただきたい、強くそう訴えます。

どのような立場の方でも構いませんから、教育関連で不正の疑いを感じたら、マスコミに話をする、などの行動をお願いします。もちろん、私にメールを下さっても構いません。イタズラなどでないと判断できたら、誠意を持って秘密を守り、信頼できる大手マスコミの方に連絡をするなどの対応をします。

そして、公立校の場合、教員採用試験問題と模範解答は必ず公表し、採点も、氏名を伏せて教育委員会以外の者も採点に関わる、などの策も必要です。私立校の場合、たいてい、採用試験に小論文が課されますので、「過去の小論文の出題テーマ」を3年分程度、学校の公式サイトに記載するなどの配慮があっても良いと思います。小論文の出題意図は、学校の求める人材像に直結しているからです。

子どもは、多様な価値観を持った人と触れ合うことで、世の中の広さを実感でき、将来の選択肢も広がります。さまざまな経験を持つ教員に教わることは、その意味でも大変重要なことです。地元から出たことのない、教員以外に進路を考えたことのない人にばかりものごとを習って、子どもの価値観は広がるでしょうか。

ですので、地元の大学出身者以外でも教員になりやすいよう、Uターン就職の奨励なども実施すべきです。別の土地での教員経験者、一般企業勤務経験者などの中途採用も積極的に取り入れることも考えられます。多様な人材が採用されれば、学閥を薄めることにもつながります。

また、先ほども記した通り、教員採用は、各都道府県や政令指定都市の責任ですので、首長の考えを問いただし、選挙なども利用して、閉鎖的な面を改めさせることも重要です。

そして、最後に、長年日本の政治体制が自民党政権で固定化し、「口利き(就職あっせん)が議員の重要な仕事」と化しているのが、大きな問題でもあると考えます。
  ですので、たとえば、政権交代で、口利きの根を絶ち、「親の職業や貧富に左右されず、試験で上位の者が正当に評価される」社会を作ることが、このような不正をなくす一つの方策になる可能性もあるのではないでしょうか。

今回のことは、日本の教育全体の質に関わる問題です。そのことを一人でも多くの方が認識して、「能力不足の教員を生み出さない」方向に日本全体が進んでいくことを、心から願います。


【今回のまとめ】
  1. 合格点に達していない者の点数を水増しして合格させることは、積極的に、公的機関が、質の低い者が教育に携わること=能力不足教員などを生み出す結果になっている。質が低い者が関わる限り、質の高い教育はできない。
  2. 多様な価値観を持つ者が教員になれるよう、Uターン就職なども積極的に取り入れるべき。
  3. 議員の仕事が「就職あっせん」と化している部分もあり、政権交代などでこのような状況を変えることで、不正をなくす可能性もある。

2008.7.28 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る▲
Copyright(c) ROSETTASTONE.All Rights Reserved.