第90回(最終回) 「高校進学の際に注意したいこと」を考える
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
今回はお知らせが2点あります。1点目は、間隔があきながらも続けてきたこの連載ですが、今回を持ちまして、最終回と致します。今までご覧くださった読者の皆様には、心からお礼を申し上げます。
2点目のお知らせは、来月から、新しい連載を始める、ということです。今までとは内容を大きく変えまして続けますので、どうぞ、引き続きよろしくお願い致します。
今回は、「高校進学の際に注意したいこと」について考えます。第62回連載「高校進学の意義」について、でも考えましたが、高校の多様化が進む中で、最近の問題に関して書きます。
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日本の大多数の中学生が高校に進学する現在の日本ですが、今は、「ほとんどの高校生が大学などに進学する」時代になっています。進学率は80%で、ちなみに、今の高校生の保護者の時代(平成元年)は約50%でした。少子化や大学の定員増加などで大幅に増えました。
※参考・内閣府「18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移」
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kihon5/1kai/siryo6-2-7.pdf
実際に、生徒と話をしていても「親が大学に詳しくないので、相談に乗ってほしい」と言われることがあります。また、新聞などで、保護者が詳しく調べないまま「大学には年間100万円程度あれば足りるだろう」と資金を用意しており、実際には数十万円不足するので、子どもが奨学金を借りるケースもある、とも見ます。
※参考・文部科学省 「私立大学等の平成26年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1365662.htm
リンク先は私立大学の調査結果ですが、国立大学も学費が上昇しており、私立大学とほとんど変わらない金額になっています。現在の日本では奨学金は基本的に貸与で(返済の必要あり)、しかも利子付が一般的です。卒業早々、毎月数万円の返済に追われるのも珍しくありません。新卒社会人が数万円毎月返済するというのは、経済的に重い負担です。この状況は早急に改善すべきで、政府による、給付型奨学金の実現を望みます。
話を戻します。現在の日本は「10人中8人の高校生が卒業後は高等教育機関に進学する」状況なのです。高校ではこれを念頭に置き、「進学後に就職する」前提の教育が実施されるべきではないでしょうか。
具体的に言うと、大学卒業後に就職予定の学生の就職活動では、次のような流れで選考が進み、企業から内定が出ます。
【学生の就職活動の流れ】
- エントリーシート(ES)の提出(手書きまたはWebで応募)
- 国語・英語・数学・社会・理科などを組み合わせ、一般的教養を問う試験が実施される(Webテスト、SPIなどと呼ばれるもの。中学から高校生レベルの学習内容から出題)
- 面接(複数回。集団、個人などさまざまな形態)
つまり、「自分の志望動機などを、自らの言葉できちんと述べる」ことができ、「高校卒業までの基礎的学力がある」ことが就職活動の大前提なのです。テスト内容は企業によって異なりますが、各企業の求める水準に達していなければ、その後の面接に進むことができません。現在、大学で「高校までの基礎学習」を補習として実施するところが多いのですが、それはこのような事情によるところも大きいです。
高校卒業までの基礎的学力、と書きましたが、現在の日本では、高校は多様化しています。
などの伝統的なもの以外に、
など、多数の選択肢が存在します。
単位制高校は、現在、さまざまなレベルの学校が存在します。自分で好きな科目を選んで3年間かけて学習するのですが、学校によっては「日本文化を学ぶ」として、生け花などを学んでも良い、とすることもあるそうです。これが学校の勉強になることに関しては、ご存じない方からは、驚きの声も多く上がるのではないでしょうか。
通信制高校はスポーツや芸能活動などと両立を目指す生徒や、一度進学した普通科高校でうまくいかなかった生徒が、高校卒業を目指して進学するのが一般的です。現在はさまざまな学力レベルの生徒が存在し、指定校推薦、一般受験などで大学進学をする者もおります。
普段はインターネットなどを通じて学びますが、学校によっては定期的に(週1・2日程度)通学を課しているところもあります。なお、投稿日数が少なくて、生活習慣などが乱れることを防ぐ意味や、勉強や友人との交流をするなどの意味で、普通科などの高校並み、週5日程度の登校を課す高校もあります。
通信制高校は普通科高校と比べると、課題が簡単で量も少ないのが通例です。生徒のやる気を出すためにはそれも必要な場合もあるかとは思いますが、「学校=課題が少ない」状態が常識だと思ってしまうと、その後の進学先で、高校までの補習に追われることも出て来るでしょう。
(なお、今年の夏の甲子園【第98回全国高校野球選手権大会】では、北北海道代表がクラーク国際高校という通信制高校に決まったことも話題になっています。高い結果を求めて日々努力に励み、創部からわずか3年で念願の結果を勝ち取ったことに、お祝いを申し上げます)
普通科高校でも国際コースなどでは、「国語や数学の学習は高1まで」ということもあります。大学生ならたくさん勉強をしたければ「履修科目を増やす」ことで対応できますが、高校生は1日6時間、週5日(土曜日授業実施の場合、3または4時間)と、履修できる科目には限度があります。そこで、外国語を多く学ぶ代わりに、国語や数学を減らすのでしょう。
これらの高校に進学すると、生徒たちは少ない勉強で、また、外国語の勉強を主にしていて高校を卒業します。そして、高校生の80%が進学するのですから、進学先で「数学や国語をきちんと勉強しないと就職できない」と知り、悪戦苦闘していることも珍しくありません。もちろん、この段階で勉強について行けず、大学などを退学する学生も出てきます。
今の就職システムが変わらない中で、一般的な会社への就職を考えるのなら、高校時代に勉強する科目を減らすことは、将来デメリットになる可能性があります。高校関係者も「グローバル化」と外国語ばかり学ばせたり、少ない勉強で満足させて生徒の将来を狭めたりしないよう、学習内容を考えるべきではないでしょうか。生徒たちは、誰にも教えられなければ、高校卒業後に「高校時代勉強しなかったことを、求められて苦しむ」ことを知らないのですから。
なお、現行の大学入試は2020年に現行のセンター試験が廃止され、思考力を問う「新テスト」(仮称)に変更が予定されています。暗記力を試す今の試験とは根本的に異なるので、現行のカリキュラムで思考力を育てようとしていない高校には、どのように育成するつもりか確認する必要があることも、お伝えしたいです。
今まで本連載にお付き合いくださいました、読者の皆様、そして、ご関係の皆様に改めてお礼を申し上げます。今までの連載は今後もwebで読める予定なので、教育問題でお困りの時には、ご参考になさってくださると嬉しいです。
そして、来月からは、新しい内容の連載を書きます。私にしか書けない、皆様のお役に立つことをお伝えしていきますので、こちらもご愛顧をたまわりますよう、どうぞよろしくお願い致します。
【今回のまとめ】
- 高校生の大学(短大・専門学校などを含む)進学率は、約80%に達している。今の高校生の保護者の時代(平成元年)では約50%で、少子化や大学の定員増加などで大幅に増えた。生徒と話をしていても「親が大学に詳しくないので、相談に乗ってほしい」と言われることがある。保護者が詳しく調べないまま「大学には年間100万円程度あれば足りるだろう」と資金を用意し、実際には数十万円不足するので、子どもが奨学金を借りるケースもある
- 現在の日本は「10人中8人の高校生が進学する」のだから、それを念頭に置き、「進学後に就職する」前提の教育が実施されるべき。大学卒業予定の学生の就職活動では、エントリーシート(ES)の提出、国語・英語・数学・社会・理科などを組み合わせ、一般的教養を問う試験が実施される(Webテスト、SPIなどと呼ばれる)。エントリーシートの内容と、テスト結果が企業の求める水準に達していなければ、その後の面接には進めない
- 現在の高校は多様化しており、普通科・商業科・工業科など以外に単位制高校、通信制高校、普通科国際コースなど多数の高校が存在する。単位制は学校のレベルによっては生け花なども勉強として単位認定され、通信制高校は一般的なレベルの高校と比べて課題が簡単で少なく、国際コースなどでは「国語や数学の学習は高1まで」ということもある。生徒たちは少ない勉強で、また、外国語の勉強ばかりしていて高校を卒業し、進学先で「数学や国語を勉強しないと就職できない」と知り、悪戦苦闘していることも珍しくない。この段階で大学などを退学する学生も出る
- 今の就職システムが変わらない中で、一般的な会社への就職を考えるのなら、高校時代に勉強する科目を減らすことは、将来デメリットになる可能性がある。高校関係者も生徒の将来を狭めないように学習内容を考えるべき
- 大学入試は2020年に現行のセンター試験が廃止され、思考力を問う「新テスト」(仮称)に変更が予定されている。暗記力を試す今の試験とは根本的に異なるので、現行のカリキュラムで思考力を育てようとしていない高校には、どのように育成するつもりか、確認する必要がある
2016.7.29 掲載
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