第63回 「新入生と保護者が気をつけたいこと」について
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
この4月で連載は5周年を迎えました。読者、関係者の皆様に心からお礼を申し上げます。今後ともつきのみどりとして、良い内容を発信していき、一層活躍できますように努力致します。皆様のご支援をいただけましたら嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。
このたび、私事ですが、離婚致しました。ご心配下さった皆様にお詫びとお礼を申し上げます。ブログ記事にご報告も書きましたので、詳しくは触れません。また、この件に関してはご質問などにお答えすることはできませんので、あしからずご了承下さいますようお願い致します。
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今回は「新入生と保護者が気をつけたいこと」について考えます。
第48回連載「進学先の決め方」について、も併せてご覧下さい。
まず、新しい世界に進むことは、ゴールではなく、スタートです。この頃はどんな受験(就職活動でさえ)も「合格すればすべて」、「合格すればあとの努力は不要」と思ってしま親子が多いそうですが、決してそんなことはありません。新しい世界に進むことは、「これから成長するチャンスがたくさん訪れること」です。
ですので、怠けていれば当然すぐにしっぺ返しがきます。
新しい世界に行くことに対する不安は、大きくて当然だと思います。でも、「これから起こることは成長に必要なこと」と思っていただきたいです。「乗り越えられる試練が、その人に与えられている」という言葉があります。ですので、「周りに助けてもらいながら、試練を乗り越えていこう、このつらさは乗り越えられる」そう思うことが大事です。
(この言葉は、この数年私が繰り返しつぶやいてきたものでもあります)
心配事や不安があれば、学校、また、心の悩みがあれば、お子さんだけでなく保護者の皆さんも、学校カウンセラーに相談して下さい。入学時に配布されるプリント・お知らせ類に詳しく書かれていることが一般的です。カウンセラーは秘密を守りつつ、校内外と連携して解決を図ります。
中学校以上では、友人関係も重要ですが、上級生との関係が生徒にとって大変なプレッシャーになっていることが多いようです。「敬語を使わないといけない」、「廊下ですれ違ったら、立ち止まっておじぎとあいさつ」など、小学生時代では考えられなかった上下関係に、最初はとまどう生徒を多く見ます。
また、中高一貫校では、部活動で高校生と一緒になることが一般的で、中1から見れば高3は「大人」、近づくことも緊張してままならず、「口をきくのも勇気がいる」と、生徒たちはよく言います。
ですので、友人だけでなく、子どもが尊敬できる上級生を早く見つけられると、学校生活がうまく行くきっかけになります。「行動が正しくて尊敬できる」先輩を見つけられるようにアドバイスしていただきたいです。
これも、長い目で見れば大人になり、社会へ出るための基礎作りの大事なことです。保護者の皆さんは自分の子ども時代を思い出して「お父さん(お母さん)も大変だったんだよ」などと話していただけると、お子さんも気楽になります。
そして、残念ながら第1志望校に縁がなかった学生・生徒もいると思います。特に、少子化の中でも首都圏を中心に中学入試は盛んで、実質倍率が2-3倍程度となっています。つまり、「志望校を受けても、2人(3人)に1人は志望校に落ちている」のが現実です。
ですので、第2志望以降の学校に進学しても、「落ちる人が多い」と割り切り、「ご縁があった学校が、未来の自分(我が子)にとって必要な存在」と考えていただけたら、と思います。
保護者の皆さんは、どうか、お子さんが精一杯受験に取り組んだ結果をなじったり、兄弟や親類と比較しないでいただきたいです。お子さんのその後の態度や親子の信頼関係に悪影響を及ぼします。
万一、既に比較した発言などをしてしまったら、たとえば入学式の前の日などに、こういった形でお話してみて下さい。
「この前比較してごめんなさい、お父さん(お母さん)もあのように言ってしまったけれど、行く○○校が□□ちゃんにとっての母校になるから、学校で精一杯、悔いのないようにがんばって。お父さん(お母さん)も、がんばるのを応援するから」
大人でも、間違った発言などをしてしまうことはあります。誰にでもあると思います。でも、それに気づいた時にすぐに悔い改め、そして、行動や発言で表していくことが大事ではないでしょうか。子どもはそういう姿勢で大人の人間性、どの人につき従うべきか判断していくのです。
親子ともども、第1志望校にもし縁がなかったとしても、気持ちを切り替えていただくことが大変重要です。学校が、第2志望以下で入った生徒を差別するなどという話は聞いたことがありません。私もそのように区別して接したことはないですし、周囲を見てもそのような話は見聞きしたことなどありません。新入生は皆、「自分の大事な生徒」に新しく加わる存在です。学校は温かく迎える準備をし、入学後は、温かさと厳しさを持って指導していきます。
急に気持ちの切り替えができなくても、学校行事や勉強・部活などに全力で取り組むうちに、学校生活が楽しくなることも多いです。全力で、というのが大事なのです。怠けていると、何もできないままあっという間に過ぎ、卒業後の進路が決まらない、ニートなどになるといった事態にもなりかねません。
「この学校に来るはずではなかった」と親子とも思ったまま過ごしていると、次のような悪い形で表面化してきます。
- 学業が投げやりになり、課題を出さず、日常の漢字や英単語の学習なども放棄する
- 他の生徒は自分より低レベルと思い、見下したり騙そうとする
このようなことが続けば、学校側から再三指導を受け、改善できなければ、最悪の場合退学処分を受けます(第61回連載もご参照下さい)。私立中学生ですと、高い入学金や授業料を払って、行くのを回避したはずの公立中学へ行くしか選択肢がありません。そのようなことを招かないためにも、「この学校に来るはずではなかった」という気持ちをいつまでも持ち続けていることのないようにして下さい。
学業放棄・怠惰、友人とのトラブルなどを起こす生徒は、たいてい「この学校は自分より低レベルの生徒が多い」、「来るはずではなかった学校に仕方なく来た」という気持ちをどこかで引きずっていると感じます。それは絶対に学校生活を良くないものにします。
最後に、この数年、学校側から見て気になることをひとつ書きます。それは、「入学後にwebの掲示板などで不満を書いたり、持ち物などの質問をしない」ことです。
学校関係者は裏サイト、生徒(と思われる者)が書いた掲示板の書き込みなど、丹念にチェックしています。他の生徒の悪口や根拠のないうわさなどを書き、停学などの処分を受ける生徒も毎年出ています。
メディアに対する教育もまだ不十分な面は多く、学校がわの課題ともなっていますが、まずは、「掲示板などは誰が見ているか分からないので、根拠のない噂話や悪口は書かない。書いたら学校から処罰される恐れもある」と、家庭でもしっかり話し合って下さい。今の生徒を見ていて、「webは世界中につながっている」ことが正しく理解できていない場合が多いと感じます。
私は、生徒にはこのように話します。
「悪口とかが言いたくなったら、家で話すか、私のところへ来るか、あとは、日記なんかに書いておしまい、ネットで公開しないこと。そんなのを見ても気持ちの良い人はいないし、自分のことに置き換えれば、悪口が書かれていたらイヤでしょう?ネットは世界中につながっているから、誰でも読めるんだからね。書かれた相手が読むこともあるかもしれないのよ。
それから、ネットで書くと停学処分などにされることもあるし、悪質な場合は訴えられることもあるからね」
保護者の皆さんも、持ち物などの質問、たとえば、「書道の道具が中学生時代のものではだめか」、「ノートはルーズリーフ不可か」などといった細かいことでも、学校にきちんと問い合わせるか、お子さんを通して最初の授業で確認させて下さい。
毎年この時期、新しい出会いがあることを私は楽しみに過ごしています。良い出会いは、前向きな、すがすがしい良い気持ちを持つことで、きっかけができると思います。読者の皆様に、素敵な新しい出会いが訪れますように、心から願っております。
【今回のまとめ】
- 新しい世界に進むのは、物事のスタートでもあり、同時に、成長するチャンスでもある。不安は大きいのは当然だけれども、「これから起こることは成長に必要なこと」と思ってほしい。心配事があれば学校、また、心の悩みは保護者ともども学校カウンセラーに相談してほしい
- 友人だけでなく、子どもが尊敬できる上級生を早く見つけられると、学校生活がうまく行くきっかけになる
- 私立中学受験者の実質倍率は2倍前後、難関校なら3倍程度。「2人(3人)に1人は志望校に落ちている」ので、「志望校に落ちる人が多い」と考えてほしい
- 「入った学校が自分の未来にとって必要な存在」と親子とも考え、保護者は子どもを批判したりきょうだいと比べる発言をしないでほしい
- 「滑り止め」、「第2志望」と考えていた学校に入学後、勉学で怠けていると成績不振になる恐れもあり、また、投げやりな態度などでいると周囲に悪影響を与えるので退学処分に追い込まれる恐れもある
- 第1志望でなかった生徒を差別する学校は一般的には存在せず、温かく新入生を迎えるつもりで教職員は準備している
- 不明な点は学校にきちんと問い合わせ、ネットの掲示板などにむやみに書き込まない
2010.4.4 掲載
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