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第80回「見える化」(2)


前回からつづく
例えば文字を見ないで「かしか」(可視化)と聞くと、瞬時に意味がわからないこともある。

筆者は会社員時代、著作権関連の業務を多く経験した。一時期、JASRAC(財団法人 日本音楽著作権協会)との交渉の中で「可視的録音」がキーワードになった時期があった。音楽著作権の世界では「歌詞」という言葉が頻出し、「可視」よりもなじみがある。そのため、専門家以外と話すときは「可視的録音」をわざわざ「『見える方の』可視の可視的録音」と説明しなければならなかった。

この言葉の場合、その後の風潮に倣えば、「可視的」ではなく「見える的」という表現になってしまうが、その後はJASRACとの間での主たる交渉事ではなくなり、その必要性もなくなってしまった。

「和語の動詞+化」形式の言葉として、最近目についたのは

  • 「文化財まもる+きっぷ」(京都古文化保存協会)

という広告である。

昔の感覚では明らかに

  • 「文化財保護+切符」

または、

  • 「文化財ほご+きっぷ」

とすべきネーミングである。

百歩譲って、「保護」の部分を和語にしたいのであれば、

  • 「文化財まもり+きっぷ」

だろう。

日本語は活用語尾や接尾語を変化させることによって、品詞の変更ができる便利な言語である。「まもる」の連用形「まもり」を名詞として使う慣用がある(日本語学では転成名詞と呼ぶ)が、近年は終止形「まもる」をそのまま名詞にする用法が出てきたのだ。

いずれにしても、このエッセイの第73回「かんきょう、えんきん、ふっこう」(漢語のひらがな表記)でも述べたように、日本語表記は、ひらがなの多用により見た目の柔らかさを重視する方向に向かっている。これを幼稚化と見る向きもあるだろうが、特に行政主導のメッセージの場合はどちらかというと好意的に見られる方が多いと思われる。(この稿おわり)

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[参考文献]
福岡県弁護士会
http://www.fben.jp/kaichou/20160701.html
2017年4月27日付朝日新聞

2017.6.15 掲載



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