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第70回 「極み」(2)


前回からつづく
  そもそも、「極み」は物事の限界点に達したことを表す言葉で、日常的な言葉で最もよく使われるのは「痛恨の極み」である。「極まる」(自動詞)、または「極める」(他動詞)の名詞化のはずだ。それではなぜ、「極まり」、または「極め」ではないのであろう。本来の品詞が他の品詞に変化して出来た言葉を転成語と呼び、この場合は転成名詞である。
  通常は動詞、または形容詞の連用形が名詞に変化する。

動詞の場合は、

    1)彼の走りなら、金メダルが期待できる。(自動詞:走ります⇒走り)
    2)彼の読みは甘く、大敗した。(他動詞:読みます⇒読み)

となる。1)、2)の例はどちらも五段活用動詞である。「極み」も、元々は五段活用かと思いきや、「極める」は下一段活用動詞なので、連用形は「極め(ます)」にならないとおかしい。

  • 未然形:きわめ(ない)・きわめ(よう)、連用形:きわめ(ます)、終止形:きわめる、連体形:きわめる、已然形:きわめれ(ば)、命令形:きわめろ

だからだ。

    3) あの家族には困ったもんだ。極めつけは、今回のあのおやじの借金だ。

のように複合的な転成名詞がよく使われる。

ところが、単独の転成名詞の場合は「極み」になってしまう。*1

  • 未然形(*):きわま(ない)・きわも(う)、連用形(*):きわみ(ます)、終止形:きわめる、連体形:きわめる、已然形:きわめれ(ば)、命令形:きわめろ
  •  

という仮想的な活用が人々の意識下にあって、「極み」が発生したのであろうというのが通説だ。
  今回の過熱報道が、このように特殊な出自を持つ言葉の増殖に拍車をかけたと言える。

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[参考文献]
日本大辞典刊行会(2004)『日本国語大辞典第二版』小学館
笠原宏之(2008)『訓読みのはなし-漢字文化圏の中の日本語』光文社新書
サッポロ 極(きわみ)ZERO-CHU-HI
三菱電機ルームエアコン「霧ヶ峰Z」ムーブアイ極(きわみ)機能

*1(*)は文法的に認知されていない活用形を表す。

2016.8.15 掲載



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