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第50回 「目線(めせん)」(3)


前回からつづく
  芸能界のリハーサルでは、「○○さん、目線ください」などと使われていたのが、近年の一億総カメラマン時代では誰もが使う言葉になったのだ。

一般人からの投稿でも、

(4) 『クロちゃん』が我が家のまん前で日向ぼっこ。ちょっと呼ぶとすぐにカメラ目線で見てくれます。
——Yahoo!ブログ(2008)より——

というような表現が完全に一般化した。

その延長で、

(5) 「上から目線の発想やめよ」
——明日香 寿川(じゅせん)2014『朝日新聞フォーラム欄』——

という表現も、2008年頃から急速に広まった。明日香氏のような大学教授が天下の朝日新聞に書く文章でも堂々と使われるようになった。芸能界用語が一般化した言葉なので、どこか隠語、若者語のようなニュアンスが従来は強かった。新しい表現なので、「上から視線」とは絶対言わない。

ところで、街を歩いたり、電車に乗っている時に、ちょっと気になる人を見かけるとついじっと見てしまうのは誰にでも経験があるだろう。あまりじっと見つめると、見られた人に気づかれてしまうことがある。その時、物理的にはありえない眼球から発した「線」を感じるのだ。駅で電車が停車中に隣のホームに止まっている車内の美人に目線(視線)を注ぎ気づかれることがある。仮想の「線」は窓ガラスをも突き抜ける。カメラを構えなくても人の目の線の力は強い。

そして、今や物事を論ずる「視線」の領域まで「目線」は浸食してしまったのだ。

(この稿おわり)

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[参考文献]
森山卓郎(1987)「慣用句」『ケーススタディ 日本文法』桜楓社
日本大辞典刊行会(2004)『日本国語大辞典第二版』小学館
Creator's Inside(語源の謎)『上から目線』元ネタはだいたひかるか

2014.12.15 掲載



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