(前回からつづく)
日本国語大辞典第二版(2004)では、「目線」は映画、演劇用語とされ、
- 演技者が目を向ける方向
- 転じて、視線
となっており、専門用語扱いである。戸板康二(1986)によれば演劇などで俳優が月や山を眺める動作を表しているのだそうだ。大道具係が作った月や山を吊り下げる時に、俳優の目とその造作物を結ぶ線が欲しかったのであろう。それはつまり、本来は「視線」という言葉である。
同辞典によれば、「視線」はオランダ語(ヘヒフツレーン=gezichetslijn)の訳語で、初出は「新精眼科全書」(1867)であり、
1. 眼球の中心点と外界の見られる対象とを結ぶ線
となっている。
訳語を作る時点で「目線」でもよかったのかもしれないが、権威を気にする医学専門家としては漢語の「視」の方を使ったのだろうと推測できる。医学用語としては他に「視軸」の方が主流だったそうであるが、明治中期から、
2. 目がものを見る方向
の意で、小説に登場し始め、明治後期に一般化したとのことである。
物事を論ずる時に見る方向としては「目線」より「視線」が多く使われ、「視界」「視野」「視点」などの言葉は物理的な医学用語から抽象概念をも表すように意味の範囲が広がっていった。
しかし、「目界」「目野」「目点」という言葉は聞いたことがない。
「視線」に関してだけは、近年では「目線」の方が他の多くの芸能界集団語と同じように一般化した。古くは「カラオケ」、20世紀末あたりからの「かぶる」、「すべる」などと同じ傾向である。
(つづく)
2014.11.15 掲載
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