日本人留学生が見たニューヨーク BACK

第1回 アメリカ カウンセリング事情

写真 アメリカでカウンセリングに通うことは日常的なことで、どんな些細な悩みでも専 門のカウンセラーに相談し解決方法を求める。「仕事がうまくいかない」とか「彼女 との関係がよくない」などの悩みからレイプや家庭内暴力に関する悩みなど内容も 様々だが、それに対するカウンセリングのスタイルも1対1で行うものやカップル・ 夫婦、親戚まで集めた家族単位で行うものもある。もし何か問題が起きたときに、長 い間自分の中に溜め込まず、問題・悩みを話せる相手を見つけ、また聞いてくれる相 手を見つけることは解決への大きなステップとなる。特に専門的に問題を扱っている カウンセラーに話すことは論理的な回答が得られ解決の近道でもある。だが、日常的 とはいえカウンセリングの選択は一歩間違えると思わぬ結果が引き起こされているの も事実。問題解決どころか死に至るまで追い込まれるケースもある。


 レイプされた事を警察に相談しても…

ここ数年の間にNYでの犯罪率は激減した。その理由の一つとして元検事のジュリアー ニ市長が「犯罪には力で勝負」ということで警察官の数を増やしたからだ。その甲斐 あって街は安全になったが、警察官の質が落ちたとも言われ、警察官の不祥事ニュー スも多い。まずは、レイプ被害者が警察官から受けたひどい尋問方法の報告から。 自分がレイプされたことを警察に報告することはとても勇気のいることで、実際レイ プ犯罪にあっても被害者のうち警察に報告するのはたった16%にすぎない。警察に駆 け込んではみたが、警察官は事実をなかなか信じてくれず、「お前の言っていること はウソだ」と逆に攻撃されたり、繊細な問題にもかかわらずぶっきらぼうに質問を投 げかけられたり、ジロジロと凝視されたりと全く無神経な態度をとられることが多々 ある。特に14歳から21歳の被害者は他の年齢群に比べ、このような屈辱的な態度をと られるとの調査結果も。同時にレイプに関する相談のうち10%は嘘の告白であること もレポートされている。特にティーンエイジャーは自分が初めてセックスをしたこと を親に内緒にしておくことに対して怖くなり「レイプされた」と嘘をついてごまかし てしまうケースがある為、その結果、警察官はティーンエイジャーの報告を頭から 疑った言動になって現れる。また一番の問題点は対応する警察官が若くて経験も浅 く、レイプにあった被害者への専門的な対処方法を学ばずに対応することが多いこと だ。繊細な問題だけに辛い思いを少しでも和らげるような対処方法を学んでからの対 応が求められている。

 病院内で被害者が傷つけられることも

被害者の心の傷を深めるのは警察だけでない。1994年、レイプ被害を受けたある教師 がクイーンズの病院で診断を受けるために待合室で待たされていた。10年前から州法 でレイプ被害者は病院で証拠となる診断書をもらうことが必要と決められている。彼 女は待合室で検査用の薄手のガウンを着させられ、なんと周りには手錠につながれた 犯罪者達も同室で検査待ちをしており、彼女をからかうような言葉を浴びせていた。 同じ待合室に傷ついた被害者と犯罪者を一緒に待たせておく病院側の無神経さを表す 事件だ。 また昨年コニーアイランドにある病院では、被害者がレイプされたことの証拠でもあ る下着や精液サンプルをうっかり無くしてしまったという事件も起きた。被害者は一 刻も早くレイプ事件から抜け出したいのに、本来なら保護してくれる病院側のミスで さらに深い心の傷を受けてしまった例だ。 現在、NY市60の病院のうち15の病院では、レイプ犯罪専門のカウンセラーにいつでも 相談することが可能となっており、また6つの病院ではレイプに関する専門カウンセ ラーを養成するプログラムも用意されるようになった。NYはレイプ犯罪が多いにもか かわらず、意外にも被害者への専門家の対応はまだまだこれからといったところ。 2001年8月に市の協議会でレイプ被害者に対する医療的な支援をするべきとの意見が まとめられ、また議員の一人は専門カウンセラー養成プログラムに対して1億ドルの 国家予算を組み込むよう提案し、市全体がようやく動き出そうとしている段階。

 幼児虐待?それともセラピー?

昨年4月、コロラド州デンバーで「再生誕セラピー」を受けた10歳の少女が悲惨な死 を遂げた。少女の実の両親は離婚をしておりノース・キャロライナ州在住の養母に育 てられていた。少女は養母との間に実の親子のような関係を築けず、コロラド州のセ ラピストを訪れた。そこで行われた「再生誕セラピー」では、4人の大人が少女を シーツに包み、「母体の胎内」を擬似的に再現しようと試みていた。少女は胎内から 抜け出さなければならなく必死にもがいた。息ができなく苦しんでいる少女に向かっ てセラピストは「もっと闘いなさい。苦しみを越えればお母さんが待ってるのよ!」。 セラピーに立ち会った養母も「もし女の子が生まれたら愛情たっぷりに抱きか 写真 かえて、一緒に楽しい時間を過ごすことができるわ」と声を掛けていた。少女の反応 がなくなったのはセラピーから40分後。少女は窒息死していた。法廷でセラピストは 「これは児童虐待ではなく、治療の1つとして行ったこと」と主張。だが「再生誕セ ラピー」が効果的という科学的根拠は無く、セラピストも無免許でセラピーを行って いたことが判明し48年の懲役が与えられ、また養母の裁判も今秋に行われる予定。親 子関係に思い悩み、セラピストを100%信じ冷静な判断ができなくなってしまった結 果、悲劇が起きてしまった。

 精神科医によるドラッグ治療は問題解決にはならない

カウンセラーやサイコロジストと違って、精神科医はドクターの称号を持っているた め相談者に対してメディカルな治療、薬の投与ができる。うつ状態の患者に与えるプ ロザック(Prozac)は、「副作用の少ない画期的な抗うつ薬」として、1990年代からア メリカを中心に世界中で急速に普及した。うつ病だけではなく、自信喪失、悲観的な 時など「消極的な性格」をプラス思考にかえる働きや、過食症、パニック障害、恐怖 症など、色々な神経性の障害にも効果があるとされ、精神科医はこれらの症状を訴え る患者に対しプロザックを簡単に投与することで治療とみなす。この薬を飲めば一時 的にはうつ症状を回避でき、この薬を飲みつづけることで完治したかのように思われ るが、止めた時にまたうつ状態に陥ることはいうまでもない。薬だけに頼らず実際に 患者の症状がなぜ起こるのか、問題点はどこにあるのかを時間をかけてじっくりと見 つけ出すまで、本当の意味での問題解決にはならない。よって投与に関して否定的な 意見も多く、じっくりと専門家と話しをして1つ1つ問題点を解決するべきとの意見 もある。


アメリカは日本に比べカウンセリングに行きやすいやすい点では進んでいるが、カウ ンセラーの選び方次第で人生を全く逆の方向に導く結果ともなりえるのは事実だ。電 話やインターネットでの無料相談なども、各団体が設けるようになってきているので まずはその扉をたたいて自分にあったカウンセリングを冷静に判断することが必要で ある。

(前田直子)


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