第77回 中学での勉強の重要性について
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。
新入学の季節となりました。新入学の皆さん、ご入学おめでとうございます。第一志望だった学校へ入学した皆さんも、そうでない皆さんも、その学校で充実した人生を過ごすのは、皆さんの気持ちと努力次第です。精いっぱい努力する皆さんには、きっと、多くの方が助けの手を差し伸べてくれます。まずは懸命にチャレンジし、その上で、もし分からないことや困ったことがあれば、恥ずかしがらず周りの方に相談して下さい。
今月で、この連載は7周年を迎えました。皆様のご愛読に改めてお礼申し上げます。
8年目に入りますが、今後も現場から見える真実と、問題の解決策や提案を私なりに書いていき、ささやかでも世の中を明るくするともしびとして発信していきます。どうぞご支援よろしくお願い致します。
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今回のテーマは、中学での勉強の重要性について、です。第69回「義務教育終了までに身につけてほしいこと」について、も併せてご覧願います。
中学生での学習として、まず忘れないでいただきたいのは、現在の「日本の義務教育での最終学習」であることです。ですので、大学生の就職試験などにも、中学程度の(高校程度の問題も含む)基礎的な問題は出題されています。一般的に、これを突破できないと、その先の面接などに進むことができません。
もちろん、中学での学習が土台となり、高校の学習が成り立っています。中学時代の勉強をきちんとしておくことは、その後の進路を決める際に、実は大きく関わってきます。ここで勉強を怠けすぎてしまうと、将来、行きたい進路を選べなくなってしまう可能性も高いのです。
現在、日本の義務教育では原級留置(留年)はほとんど行なわれておらず、その結果、「よく理解していなくても進級できる」ことになってしまっています。表現は良くないですが、怠けたままでも進級できてしまうのです。
すると、「よく理解しないまま高校に進み、高校の勉強もその場しのぎで卒業してしまう」ことにもなりかねません。高校の教育は、生徒の学力レベルに応じて実施されており、在籍する生徒の標準的成績が「3」になるように設定されるので、生徒の学力レベルが低ければ、それに合わせた授業内容になるからです。
しかも、今は少子化で、短大が学生募集の困難さなどから大学への改組を申請し、文部科学省も基本的に認可をしてきました。その結果、前回の連載で書いた通り、現在の高校生は日本全体で1学年125万人くらいおり、大学進学率が約50%、60万人が大学生になっています。ですので、これらを総合した結果、「高校はおろか、中学の学習内容もあやしい」大学生が多く存在してしまっています。
その結果、優秀な大学生もいるのですが、一方で、「大卒の就職試験を突破できるように、大学での本来あるべき学問の姿とはかけ離れた、中学の復習を中心にしている大学、また、学生が出ている」のが日本の教育現場の実態です。
このような問題が起きていることからでしょうか、橋下大阪市長が「義務教育での留年を実施できないか」という趣旨の発言をしています。
確かに、大学で(高校どころか)中学の復習をする学校がある日本の現在の教育は、尋常ではありません。また、この連載の第39回「スポーツを習わせる時の注意」について、などでも取り上げましたが、たとえば、スポーツだけしていて勉強をほとんどせずに中学を卒業し、高校へスポーツ推薦で進学した場合や、他に、勉強に対する意欲が低いまま中学卒業まで過ごしたり、家庭の事情で塾などに通えず、勉強が難しくなってついていけなくなるなどして、弱い学力の生徒が集まった高校に進学した場合など、中学1年生(あるいは小学校の途中)の勉強からやり直すほうが、その生徒の実力にふさわしい例もあります。
ですが、この制度を実施するのであれば、まず先に、1クラス20人程度の少人数学級を実施し、また、放課後には大学生や地元の方などが参加する補習講座なども学校で実施するといった教育制度改革を先に行なわねばならない、私はそう考えます。
1クラスの生徒の人数が減れば、教員は目が届きやすくなります。少人数授業は私も経験がありますが、本当に目が行き届きますし、生徒の質問にもすぐに答えてやれます。その場で生徒の疑問が解決するので、意欲も湧きますし、帰宅後に宿題も自力で解けます。
また、放課後のサポート体制を整えることで教員の負担を抑えつつ、子どもの意欲を伸ばすこともできます(教員が放課後の補習まですると、正規の授業の準備に影響が出てしまうことが想定されます)。地方で人手が不足する地域は、大手予備校が実施しているような、衛星を使った授業での補習なども考慮に入れて良いでしょう。
このような制度改革をしなければ、「わからないまま質問もできず放置される、勉強に対する意欲が低い、家庭の事情で塾に行けないなどの理由で、何も対策ができず留年してしまう」子どもが多数出てしまう恐れがあります。
話を戻します。これから中学に進学する生徒、また、在校生と保護者の皆さんは、「中学での勉強は怠けず、自分なりに精いっぱい努力する」ことを肝に銘じてほしいです。怠けた場合、高校以上の学校に進学すると、必ずそのツケが回ってきます。
私立校では当然なのですが、公立校でも最近は入学前課題を出す学校があるようで、これは、「自学自習」の習慣を生徒が持つための指導の一環です。部活や習い事に打ち込むのも大事ですが、できる限り、家での勉強と両立できるように努力し、勉強でわからないことができたら、すぐに先生に質問や相談をして下さい。塾に行くのも良いですが、まずは本人が頑張る、という気持ちを持たないと、行っても時間と費用の無駄といった結果にもなりかねません。
なお、最近人気の中・高一貫校に在籍していると、高校受験がないので、じっくりと時間をかけ、ものごとに取り組めるなどの良い面もありますが、その場しのぎの学習が当たり前になってしまい、「テストが終わると前のことを忘れてしまう」悪い習慣がついてしまうこともあります。同じ学校に高校受験で入ってきた生徒がいる場合、学力に大きな差がある場合も珍しくありません。
これを繰り返すと、結果的に、大学受験の際に学力が積み重れられていないので、一般受験で大学を受けることは難しくなってしまいます。習ったことは忘れてしまうのではなく、きちんと積み重ねていくことを忘れないでほしいです。
学校では絶対評価で評価がつきます。その結果、1がつく子どもはほとんどいなくなりました。ただ、だからといって全員が5、ということも、もちろんありません。
特に注意していただきたいのは、「意欲が強く成績に反映される」ことです。テストの点数以外に、授業中に積極的に発言したり、提出物や課題のしめ切りを守ったりすることで評価に差が出ますので、「積極的に取り組んだり、しめ切りを守ることは自分にとってプラスになる」とお子さんによく話していただきたいです。
しめ切りを守る、というのは、社会に出ても非常に重要なことで、社会人になって時間やしめ切りが守れなければ、それだけで評価が下がりますし、リストラなどの要素にもなりかねません。ですから、「自分のためである」ことを子どもに理解してもらうのが大事です。
小学校の教員は、それぞれ大学での主専攻教科として学んだものがありますが、基本的に全教科を指導しなくてはなりません。それに対し、中・高の教員は、教科ごとに教員免許が授与されるのが基本です。過疎地などで教員が複数教科を掛け持ちして教えるといった事情のない限り、大学で主に学んだ教科について授業をしています。つまり、中・高の教員は、それぞれの教科の専門家なのです。
ですので、分からないことや勉強の相談は、積極的にして下さい。その教科が得意だったから教員になっている者もいますが、悩んで努力して苦手を克服し、教員になっている者もいます。私自身も、中・高時代、国語のすべてが得意だったわけではなく、苦手だった分野を一生懸命練習してきました。新年度は受け持ちの先生が変わる時期でもありますので、新しく担当になられた先生、また、今まで習っていてわかりやすかった先生にどんどん相談に行って下さい。
最近の中学では就業体験も多く行なわれています。思春期のこの時期は、今後社会人になるための土台作りの時期でもあります。今は子どもと関わる大人が保護者、教員、習い事の指導者や部活動のコーチなどに限られてしまいがちで、視野が狭くなってしまうことにもつながりかねず、良くありません。できるだけ多くの年代の人と積極的に関わり、社会へ出るための目を養うことが、その後の人生を実り多いものにする第一歩になるでしょう。
なお、この4月から中学の学習指導要領が改訂されます。特に注意していただきたいのは、男女とも武道とダンス、ソフトボールが必修化されることや、3年生の保健体育での「くすり教育」などが実施されることです。武道とダンスは、それぞれ男子だけ、女子だけの学習だったものが、男女ともに必修になりました。ソフトボールは、体力面でも格差がある現代の子どもの実態を反映し、たとえば、バットも従来の金属バットではなく、特殊な柔らかい素材を使うことになっているそうです。
この中で特に、武道は危険が心配される中でのスタートとなります。柔道を選択する学校が最も多そうなのですが、学校での柔道の指導中の重大事故が毎年絶えないからです。武道に関しては、4月の保護者会などで、危険の少ない内容になっているかよく確認していただき、お子さんにも「ふざけて授業に取り組んではいけない、命に関わる事故が起きては大変」などと、じゅうぶん注意をしていただけたら、と願います。
また、地域によっては、公立校では中学から給食がなくなり、弁当持参となる場合があります。市町村間で差があるので、隣の市は完全給食なのに、隣は弁当持参、という場合も珍しくありません。
保護者の皆さんにとっては負担が大きいと思いますが、一生お子さんのお弁当を作り続けるわけではありませんし、弁当持参の学校の昼食は、学校内でじかに保護者の愛情を感じられる、大事な時間になっています。普段のおかずを冷凍保存したりしてうまく工夫して欲しいです。お弁当を食べている時の生徒たちは、それ以外の時間とはまた違う、楽しそうな良い表情をしています。
ちなみに私も、基本的にお弁当持参なので、たとえば、ハンバーグを作ったら、お弁当用にミニサイズを作る、すき間埋めにミニカップにおかずを詰める、などのひと手間をかけて、冷凍保存しておき、うまく使いまわしています。家電製品とレシピなどを上手に活用してみて下さい。
生徒の皆さんも、作ってもらうのが当たり前と思わず、保護者が大変忙しい時や体調が悪い時など、自分なりに手伝ってみて下さい。学校に慣れた夏休み以降、「月に1日は自分で作る」日を決めてみるなどという方法も良いと思います。手伝うことで、保護者の皆さんのご負担が分かると思いますし、大人になる準備のひとつとして、これは大事なことです。大人になって自立して一人暮らしなどしたら、基本的に自分で何もかもしなくてはならないのですから。
最後に、中学入学は思春期の入り口、この先親子で精神的に対立したり、また、特に運動部に在籍するお子さんの家庭では応援や食に関しての負担が重いなど、それまでの生活ではなかった多くのことに出会うと思います。
ですが、反抗期がなければその後の人生に何らかのひずみが現れますし、お子さんも一生保護者のお弁当を食べ続けるのではありません。ここでしっかりお子さんの成長が間違った方向に進まないよう、見て、また、態度で示していただきたいです。困られたら、繰り返しこの連載で書いていますが、周りのプロの方のお力をご遠慮なく借りて下さい。私も、メールやtwitterなどでご連絡をいただければ、お話を聞かせていただきます。
なお、反抗期に関しては、第58回「反抗期の子どもへの対応」について、をご参照願います。
この記事に出会った中学生の皆さんの、義務教育の最終学習である中学校での生活が、充実して楽しいものになりますように、心から祈っております。
【今回のまとめ】
- 中学生での学習は、義務教育の最終学習でもある。その後の人生でも就職試験などでこのレベルの問題が出題される。ここで勉強を怠けすぎてしまうと、将来、行きたい進路を選べなくなってしまう可能性も高いし、上級の学校に進学する限り、怠けた代償はついてくる。中学生自身がこのことを覚えておくのが大事。最初は大変でも、家で学習する「自学自習」の習慣を持って欲しい
- 中・高一貫校に在籍している場合など、「その場しのぎ学習」の悪い癖がついてしまい、「習ったことはテストが終われば忘れても良い」という悪いパターンに陥る場合がある。学習の積み重ねの大事さを意識して欲しい
- 評価は絶対評価であり、本人の意欲が成績に強く反映される。積極的に取り組んだり、しめ切りを守ることは自分にとってプラスになる、と本人が理解することが大事
- 教員はそれぞれの教科の専門家なので、積極的に質問や相談をして欲しい。得意だったから教員になっている者もいるが、そういう者ばかりでもなく、悩んだ者のつらさが分かる者もいる
- 就業体験などもあるが、今後社会人になるための土台作りの時期でもあるので、多くの年代の人と積極的に関わり、社会へ出るための目を養って欲しい
- この4月から中学の学習指導要領が改訂され、男女とも武道とダンス、ソフトボールの必修化、また、3年生の保健体育での「くすり教育」などが実施される。特に武道は危険が心配される中でのスタートなので、保護者会などで内容をよく確認していただきたい
- お住まいの地域によって、公立校でも中学から給食がなくなり、弁当持参となる場合がある。保護者の皆さんにとっては負担が大きいと思うが、学校内でじかに保護者の愛情を感じられる時間なので、うまく工夫して欲しい。また、生徒も、作ってもらうのが当たり前と思わず、保護者が大変忙しい時や体調が悪い時に手伝ったり、また、夏休み以降月に1回は自分で作るなど、大人になる準備と思って少しずつ取り組んで欲しい
- 中学入学は思春期の入り口、それまでの生活ではなかった多くのことに出会うが、その後の良い人生のために必要なので、周りのプロの手を借りつつ乗り越えて欲しい
2012.4.9 掲載
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