第58回 「反抗期の子どもへの対応」について
皆さんこんにちは。今回も連載をご覧下さりありがとうございます。今月で連載も4周年、5年目に入ります。皆様のお役に立てる内容を発信できるように、これからも精進して参りますので、ご声援いただけましたら嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。
今月、大阪府で小学4年生の女子児童が、家庭での虐待後に殺害される、大変痛ましい事件が起こりました。女の子のご冥福を心からお祈り申し上げます。
今月初め、行方不明になったという報道が出た時点で気になっていたのですが、最悪の結末になり、なんともやりきれません。
この事件で気になっていることが2点あります。虐待を疑う声が複数挙がっていたのに、結局救うことができなかったこと。
そして、母親、内縁の夫と夫の知人の3人が逮捕され、家庭には、この春小学校に入学したばかりの、内縁の夫の連れ子がいるそうですが、この子どもの立場から見れば、突然保護者は逮捕され、姉は殺される悲劇に見舞われたことです。小学校に入ったばかりの、希望と夢がいっぱいの時なのに、これもまた、言いようもなくいたましいです。
虐待は、か弱い子どもにとって逃げ場のない、つらい状況です。また、他にきょうだいがいれば、虐待されていなくても、最悪の場合、親の逮捕などで悲劇的影響を与えます。虐待を疑う状況が見つかったら、大人は即刻責任ある行動を取らねばなりません。
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今回は「反抗期の子どもへの対応」について考えます。
中学・高校で教えていますと、思春期を迎えたお子さんへの対応で悩む保護者を多く見ます。反抗期でどう対応すべきか悩んでいるケースが大半です。お子さんへの対応をめぐり、夫婦で対立、その後の親子それぞれが深刻な断絶につながりかねないケースもあり、私も、お話を聞く時に、繊細かつわかりやすい対応をするよう心がけています。
まず、「お子さんが家庭で荒れたり、不機嫌になるのは、保護者を信じているから」だと認識して下さい。もし信じていなければ、心を閉ざし、本当のことは話しません。そして、学校などで荒れ、トラブルを起こします。
信じているからこそ、荒れて本音をぶつけてくるのです。それだけはいつも忘れないでいただきたいです。
そして、「荒れるのは思春期に一般的なこと」だとも認識して下さい。自我が芽生え、自分の心や生き方について悩み、真剣に考えているから、そして、子どもなので表現が未熟なため、荒れて表現するのです。
この時期に荒れないのは、深くものごとを考えていない、あるいは、既に、「親は何を言っても、自分の意見など聞いてくれない」と考えているから、などとも推察できます。この時期に荒れなければ、結局大人になって進路に行き詰まったり、親子間で、深刻かつ取り返しのつかない断絶を生むことにもつながりかねません。
荒れる状況は、たとえば、このようなケースが考えられます。
- 部活動などでライバルができた、上級生と下級生の板ばさみでつらい
- クラスで強い存在感を持つ子どもがいて、自分の居場所を見つけにくい
- 自分の中できょうだいと比べて、また、保護者の多忙、離婚・再婚などで、保護者の関心がないと感じる
- 将来への不安などを抱く
もちろん、お子さんが100人いれば100通りの原因があります。そして、内向的な子どもは、荒れるのではなく、不登校などの形で気持ちを表します。
では、このような子どもには、どのように対応していけば良いのでしょうか。
まず、荒れるのは一般的なので、うろたえたり変に従ったりしないで、心を強く持って対応して下さい。
変に従うと、「親を力や言動で従わせるのが当たり前」と思い、言葉も含めて暴力的にしか感情を表せなくなります。それは決して誰の人生にもプラスに働きません。
たとえば、「死ね」など、もののはずみとは言え、決して口にしてはならないことを子どもが口にすることがあります。このような時は、「それなら親の自分が死んだらどうなるか、生活ができない、それでもいいのか」などと、毅然と反論して下さい。このようなことを通じ、子どもは、口にしてはならないことがあると、身をもって覚えていきます。
お子さんが荒れると、口数が少なくなったり、反抗的にしか受け答えしなくなったりしますが、生活をよく見たり、学校に問い合わせたりする中で、荒れている原因が見えてきます。子どもにしつこく問いただしても言ってくれることは少ないので、あせらずじっくり観察、相談などして下さい。
そして、両親揃っているのでしたら、結束して対応して下さい。両親揃っている家庭の生徒が、反抗期で荒れたり、深刻な問題に直面しているのにも関わらず、なぜか父親の様子が見えないことがあります。そのような話は一昔前のこと、と思われる方もいるかもしれませんが、決してそうではありません。
このような状況が続くのなら、お子さんの問題は解決しません。子どもは「お父さんは自分に関心がない」と解釈しますし、母親から見れば、「父親としての責任を果たしているのか、父親は教育費や生活費を払うだけで良いのか」と、不信感を抱きます。これが糸口になり、修復できない亀裂にまで広がり、結局、子どもが自立してからの離婚といった事態にもなりかねません。
荒れていると、一緒に外食やレジャーなどに連れ出すのも不快になるかもしれません。でも、特に悪いことをしたなどの理由がないのなら、連れて行って下さい。一緒にいるだけでいいのです。もしも他のきょうだいを連れて行き、その子だけ置いていけば、ますます「自分は見捨てられた」と考えてしまいますので。
「おはよう」、「お帰り」、といった日常のあいさつをするのも不快になること、また、お弁当を作るのも気が進まないこともあるかもしれません。これも、「死ね」などと言われたなどのことがなければ、続けてほしいです。そのような保護者の態度を見て、子どもは「親は自分を見捨てていない、関心がある」と思うのですから。
更に、恥ずかしいことではないので、必ずプロに相談して下さい。深刻化すると、家庭の中だけで解決することはほぼ不可能です。
学校教員、カウンセラー、NPO法人など、対応してくれるところは数多くあります。WEB検索などでも探せますし、私にご相談いただけましたら、一緒に考えさせていただきます。
反抗期になるのは、誰かのせいではありません。お子さんが真剣に生きていこうとして悩み、また、現状を変えたいと思うからこそ、行動に出るのです。ただ、まだ未成熟なので、表現がうまくできなかったりするだけなのです。
この時期に対応を間違えると、家に居場所がないと思い、外出が増えることにもつながりかねません。
外出や、また、家族とのコミュケーションが希薄になるのと反比例して、携帯電話に依存した結果、薬物中毒、売春、携帯電話を通じて出会い系サイトなどにアクセス…犯罪に巻き込まれる可能性が生まれます。子どもの心身や進路に大変な悪影響を及ぼすことが、現在の日本には溢れています。保護者の子ども時代とは比べ物になりません。
私は、原宿・竹下通りを歩くことがありますが、首都圏の子どもだけでなく、修学旅行生も多く見かけます。ただ、私の思春期にいなかった、麻薬売人のような人物が街にいるのを見ると恐ろしくなり、また、魔の手から子どもたちを守らねば、と思います。
家庭での不和の結果として、お子さんを不幸に追い込むことのないようにして下さい。
反抗期に、親子ともども正面から泣いて笑ってぶつかることで、親子それぞれ「相手が自分のことを信頼し、真剣に考えている」ことが次第にわかり、その後の人生で良い関係を築くことができます。
反抗期を過ごしているうちに受験や打ち込みたいことなどが見つかり、反抗期を通過してしまうことも、多くあります。
おつらいことも多いかと思いますが、一生反抗期の子どもは存在しません。必ずトンネルに出口はあります。保護者の皆さんは、どうかその出口まで、あきらめることなく希望を持ち、お子さんとともに未来への道を歩いていただけたら、と願います。
多くのプロが、保護者の皆さんとお子さんが、未来への道を笑顔で歩いていただくために、仕事をしています。私も、ささやかですが、そのひとりのつもりで仕事、また、発信をしております。
【今回のまとめ】
- 荒れるのは思春期に一般的な現象である。また、子どもが家庭で荒れたり、不機嫌になるのは、保護者を信じているから起こす行動。内向的な子どもは、荒れずに不登校などの形で表れることもある。
- 保護者は毅然とした対応をしてほしい。暴力的態度や発言に従うと、その後関係が改善できなくなる。
- 反抗期になるのは誰かのせいではなく、子どもが真剣に生きていこうとして悩み、また、現状を変えたいと思うゆえの行動。
- 正面から向き合うことで、親子それぞれ「相手が自分のことを信頼し、真剣に考えている」ことが次第にわかり、その後の人生で良い関係を築くことができる。
2009.4.30 掲載
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