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第84回「パンツ」(その1)


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男性用アパレル・チェーン店でよく見かけるこのような写真、「パンツ」は下着なのかどうか?
下着ではないことは一目瞭然だが、写真がなくても、

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でもズボンのことだとわかる。 どうしてか?
「1枚」ではなく、「一本」だからだ。日本語の助数詞では「細長い棒状のもの」を「本」で数え、「厚みがない矩形状のもの」を「枚」で数える。

筆者のような高齢者にとって、「パンツ」はあくまでも下着であるが、ファッション業界ではもうずいぶん前から「パンツ」が拡大している。言語学で言う「意味の拡張」*1である。1960年代後期にファッション業界により名付けられた「ホットパンツ」がその嚆矢と言える。当時、ファッション業界が流行させた女性用の極端に短い半ズボンである。ここで、わざわざ「半ズボン」と書かなければならないのは、この「ホットパンツ」を知らない世代には下着なのか、上着なのかわからないからである。同時期に、男性用でも「コットンパンツ」、「ジーパン(ツ)」、「チノパン(ツ)」など、下着ではないパンツ表記が出てきた。
女性用にはパンタロン・スーツも出現し、『日本衣服史』(増田美子・著)には

  • ~パンタロン・スーツは、女性にとって街着とはなりえなかったパンツ(ズボン)*2を街着の位置まで引き上げた。
 

とある。ここで注目すべきは2010年発刊のこの本でも、「ズボン」を意味するカッコ書き付きで「パンツ」を使っていることである。

そもそも、「パンツ」(英:pants)は多くの英語に見られるようにフランス語由来の言葉だそうだ。フランス語でズボンを意味する“pantalon”を変化させて複数形にした“pantaloons”が短縮されたらしい。そして、日本語の「ズボン」という言葉はフランス語でペチコート(婦人用下着)を意味する“jupon”(ジュポン)が語源だというから、またややこしい。


[参考文献]
増田美子2010『日本衣服史』吉川弘文館
米原万里2005『パンツの面目 ふんどしの沽券』
*1 semantic extension の邦訳
*2 傍線は本稿筆者による
小西友七・主幹1992『フレッシュ ジーニアス英和辞典<改訂版>』大修館書店
『アンちゃんの和製英語講座』(「アンちゃんから見る日本」所収)

2017.10.15 掲載



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