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第75回「盛り土(もりど)」(1)


東京都の豊洲新市場の設計に関する問題で、一躍耳にすることが増えた「盛り土(もりど)」。この漢字の読み方に違和感を覚えた人も少なからずいたであろう。一連の報道が始まった頃、元首相の座にいた人が朝日新聞宛てにわざわざ「なぜ、『もりつち』と読まないのか?」と質問したくらいである。

筆者も、それまで「もりつち」と読んでいた。ただし正確には「盛土」と書かれた文字を「もりつち」と黙読していたのだ。小学生のころから鉄道趣味雑誌でこの言葉によくお目にかかっていたのだが、テレビでこの言葉を聞いたことはなかったので、自分の判断で「もりつち」と読んでいた。鉄道における「盛土」は田園地帯に線路を敷くための一手法である。東海道新幹線以降、新線建設時はコンクリート支柱による高架線とすることが一般的になったが、それまでは「盛土」にすることがほとんどだったと思う。

元首相の細川 護熙(もりひろ)氏が主催する「鎮守の森プロジェクト」というNPO団体がある。植林が自然災害を最小限に食い止めることを啓蒙している。先日、このプロジェクトの動画を見ていたところ、ナレーターは「盛り土」をやはり「もりつち」と読んでいた。

ところが、豊洲市場移転にまつわる一連の報道で、「もりど」が常識になってしまった感がある。それにもかかわらず、「もりど」に違和感を覚える人がいるのは、これが湯桶(ゆとう)読みだからである。

どうして「もりつち」と読まないか、筆者はこう考えた。
「つ」「ち」を発音しようとすると、舌を微妙に動かさないといけない。
まず。「つ」[tsɯ]*1を発音するためには舌を一瞬歯茎(はぐき)の裏に触れさせ、その直後に舌と歯茎の間に隙間を作って発声させる。その後、「ち」[ʨi]*2を発音させるために、舌を歯茎と口内の天井の様なところの間に一瞬触れさせ、「つ」と同じく舌との間に隙間を作って発声させなければならない。(つづく)

*1[tsɯ]:歯茎(しけい)破擦音に分類される。 *2[ʨi]:歯茎硬口蓋破擦音に分類される。

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「つ(tsɯ)」と「ʨi(ち)」の違い

[参考文献]
鹿島央(あたる)(2002)『日本語教育をめざすひとのための~基礎から学ぶ音声学』スリーエーネットワーク
佐々木幹夫(2011)『日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド第2版』ヒューマンアカデミー
鎮守の森プロジェクトHP

2017.1.15 掲載



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