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第67回 「ゲス」(1)


2016年前半は

  • 育休中にゲス不倫が発覚した宮崎謙介氏、(週刊文春)*1

というような表現が目についた。

ゲスの極み乙女。というJ-POPバンドメンバーの川谷絵音(かわたにえのん)とベッキーによる交際を週刊文春が報道した後追いで、次々と有名人の不倫が暴かれた。その報道の際、名前や行動に「ゲス」を接頭辞として付加する表現が定着してしまったのだ。

「ゲス」は

  • 畑をつくりて、一人二人のげすを使ひとあらむ(10C~*2 宇津保物語・藤原の君)

に見られるように、古くからある言葉である。「下衆」、「下種」、「下司」など、いろいろな漢字があてられるが、ここにきて、すっかりカタカナ表記が定着してしまった。一般的にカタカナ表記がされる要因は増地ひとみ(2012)*3によれば、次の4種類に分類される。

  1. 規範意識(固有名詞、動植物名などを表す場合など)
  2. 形式(読みやすくする場合など)
  3. 表現効果(従来とは違う意味や意味範囲を広げるために使う場合など)
  4. 文脈(媒体の性格の違いによる場合など)

しかし、「ゲス」の場合は新表現のきっかけとなったバンド名にカタカナで用いられていたので、そのままカタカナ表記となってしまった。バンドメンバーの知人が持っていたトートバッグに「ゲスの極み乙女。」と書かれていたのをバンド名に拝借したという説が有力らしい。*4

本来、「ゲス」はバンド名の一部であるから、上記分類の1.に相当するのであるが、冒頭に示した例文では、そのバンド名を利用しながら普通名詞に冠する形容詞的に使われている。「ゲス~のメンバーが起こしたのと同種類の不倫」という意味であり、つまり分類3.の要因でのカタカナ化にもなっているわけだ。「下衆がするような不倫」という意味であれば、分類4.となる。(敬称略・つづく)

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[参考文献]
日本大辞典刊行会(2004)『日本国語大辞典第二版』小学館

*1 2016「週刊文春(2016年4月7日号)」株式会社文藝春秋
*2 10C=10世紀。宇津保物語は10世紀後半の成立で日本現存最古の長編物語。
*3 増地ひとみ2012『テレビ番組の文字情報における文字種の選択-番組のジャンルと語用論的要素に注目して-』早稲田大学日本語学会2012年度前期研究発表会
*4 ウィキペディア「ゲスの極み乙女。」

2016.5.15 掲載



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