1) あいつのジャズに関する知識は半端ない。
などと使う。元々は「半端ではない」と言われていたのが、21世紀に入るころから、「半端ない」と省略されるようになった。他の多くの新表現と同様、テレビでの芸能人による多用により、話し言葉だけでなく書き言葉にまで使われるようになった。
「はんぱない」を江戸時代に現れた町民語化して、「はんぱねー」、さらに省略して「ぱねー」と発音する若者言葉も出てきた。漫画の吹き出しなどでは「っぱねー」と書きたくなるが、実際の発音は「ぱねえ」に近い。「ない」が「ねえ」に変化するのは上方(かみがた)から見ると東国での変な発音だと江戸時代の出版物『浮き世風呂』に記載されているとのことだ。このようなエ列長音化は「ない」のような形容詞に発生することが多い。(山口仲美2006) また、「は」[ha]は咽の奥の方で音が作り出される(*1)ので、母音化([ha]→[a])したり、無声化したりし易い。さらに次の撥音(ん)はその次の[p](「ぱ」の子音)の影響で唇を閉じて発音の準備をする[m]という子音 (*2)になるので、またまた無声化し易い。従って、「ぱねえ」だけ聞いても「はんぱねー」と認識し易い。
「ぱねー」はさすがに書き言葉では使いにくいが、「半端ない」は2001年の時点ですでに書き言葉で使われている。(国立国語研究所データベース)
2) 会場にて藤原さんと編集部・池田。セレブ度の高さに興奮ぎみ。16カメラマンの人数も 半端ないっ!(右からLVMHグループ会長ご夫妻、ジェーン・バーキン、1人とんでアナ)
河島裕子・藤原美智子 2001『MISS』「2001年6月号」世界文化社
ただし、これは掲載写真を説明するためのキャプションなので、見出しによくありがちな「感動表現」である。純粋な書き言葉というわけではない。話し言葉⇒書き言葉への浸食途中の現象と思われる。
ところが、今日では小説家が書く文章にも
3) ~さらに著者の知識が半端ない。(三浦しをん2014「朝日新聞書評欄」)
という表現が見られるようになった。
それも、なんと書評欄に現れたことには驚いた。(つづく)
(*1)声門摩擦音と呼ばれる。
(*2)両唇鼻音と呼ばれる。
[参考文献]
国立国語研究所データベース「少納言」
山口仲美2006『日本語の歴史』岩波新書)
2014年8月31日付け朝日新聞・書評欄
2015.10.15 掲載
|