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第58回 「粛々(と)」(1)


2015年4月、米軍普天間基地の辺野古への移設工事を巡って、菅(すが)官房長官が「法的措置は済んでおり、粛々と進める」という内容の発言をし、移設反対派の沖縄県・翁長知事の怒りを買った。「『粛々と』という表現は上から目線だ」とした。「上から目線」も新しい表現だが。このような「粛々」の使い方も長い日本語の歴史から見れば比較的新しいというのが定説である。

「粛」の旧字体は「肅」であり、元々音符を表す聿(シュク)と意味(水の流れが巡る意)を表す旧字体が一部省略された漢字である。それ故、形声文字という分類に属する。

「粛々(と)」は手許の辞書*1)では、

  1. おごそかに
  2. すみやかに

などを初めてとして、かなり意味範囲が広いが、ビジネスの実務面では、「いろいろな反対意見があろうが当初予定通り業務を進める」ニュアンスである。菅官房長官の発言もこの路線に違いない。ただ、部下が上司の意見に反対であっても組織の命令だから仕方なく行う場合もあるから、本来は必ずしも上から目線だとは限らない。

ある年代以下の人たちでは、同様の意味で「サクサク(と)」がおなじみだ。

  • どうせ、この企画書、一回では通らないんだから、サクサク(と)作りましょう。

などと使う。

筆者がこの表現を初めて聞いたのは1992年新卒入社社員の言葉であった。「サクサク」は元々、気温がある程度低い時の雪道を歩く時の形容で使うことが多く、つまり擬音語(onomatopoeia)*2)であった。

ちなみに、この「オノマトペ」という専門用語はTVの知的バラエティ番組などで最近はすっかり一般化した。

その擬音語としての「サクサク(と)」が、物事がスムーズに進む時の様子に援用され、擬態語(mimesis)、あるいはそれから派生した副詞としても使われるようになったのである。

彼らより上の年代の者にとっては「サクサク(と)」は「粛々(と)」に比べ、極めて話し言葉的、友達言葉的に思えた。(つづく)


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*1)見坊豪紀・他編2001『三省堂国語辞典第五版』三省堂
*2)近年、「オノマトペ」の方はかなり一般的な言葉になってきたが、擬態語も含めて言われることも多いようだ。

2015.8.15 掲載



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