WEB連載

出版物の案内

会社案内

第57回 「シェア(する)」(2)


市場占有率を意味する「シェア」は主に会社の仕事に関係するビジネスマンや経営者が口にすることが多かった。もう少し広く一般的に使われるようになったきっかけは「ルームシェア」(またはシェアルーム)であろう。都会での住居費節約のため、気のあった複数の人が同居する状況を表すのにマスコミが英語の“roomshare”を多用した。

この概念を本来の一言の日本語で表すのは難しい。「同居」では家賃を折半している様子が伝わらない。「同棲」は男女間の性的関係が強調される。「間借り」だと家主との関係と混同する。「居候(いそうろう)」では片方が家賃を払っていない。「ルームシェア」を無理やり訳すと、「友人との部屋分割」となるだろうが、「家」全体の空間を分け合うだけでなく、「ルーム」も分け合っている階層概念が薄れる。そして、「ルームシェア」とすると、なんとなくお洒落(しゃれ)感が出る。

この「シェア」が一般化するにつれ、例えば食事会などで大皿から各自の小皿にとりわけるときにも「シェアする」と言うようになった。これを日本語にしようとすると「分け前をとる」というニュアンスが合うだろう。食べ物などを不当に多く分け前にしてしまうことを「lion's share」と言うそうだ。イソップの「獅子の分け前」(*)を語源とするらしい。

そして、いよいよSNSでの「シェア(する)」の登場だ。この「シェア」はそれまでの一般的な用法とはニュアンスを異にする。他人の書きこみを「シェア」することによって、その情報を分け合うというよりは広めることになるからだ。「拡散(してください)」という言葉が一般的に使われている。書き込み内容を「分割共有」するというよりは「増殖」させている感じがある。SNSの具体的な仕組みをよく知っているわけではないが、「所有を分割する」というよりは、書きこみデータを事後承諾で「頂いている」ことに他ならないのではないか? 従来概念の「シェア」というより、「コピペ」である。

かくして、「シェア」の意味範囲が広がったことになる。


photo


参考文献
朝日新聞夕刊 2015年6月8日付「時事英語に挑戦」朝日新聞社
ウィキペディア「獅子の分け前」
(*)仲間(ロバ)の不幸により、強者(ライオン)から身を守る処世術を覚えたキツネの話

2015.7.15 掲載



著者プロフィールバックナンバー
上に戻る