プリクラの流行からデジカメ、スマホの普及に至る写真撮影手段の増加で、自分の写真を撮る機会の増加はとどまることを知らない。さらに、SNSに参加する人が増え、自分の顔写真を公表する人も増えた。今や若者で、「自分の顔写真が恥ずかしい」という人は少数派だ。カメラの前で故意に歪(ゆが)ませた顔を作って撮影し、公開する「変顔(へんがお)」という言葉が21世紀になって出てきた。国立国語研究所のデータベースによれば、2003年が初出であり、手許の2001年発行の辞書(
*1)にはまだ掲載されていない。
どうして、わざわざ変な顔を他人に見せるのか。あえて変な顔をして写したから変なのだ…と言いたいのだろう。つまり、変な顔をしなければ自分の顔はまともなのだと言いたいための強調方法とも言える。
ところで、これは「へんがん」ではなく、「へんがお」と読む重箱読み(音読み+訓読み)であることに気づく。昔々、湯桶読みと重箱読みを習ったなあと、懐かしさを覚える人も多い文法用語だ。今後は「重箱」を見たことがない若者がどんどん増えるだろうから、「変顔読み」と教えた方がスムーズなのでは?と思ってしまう。
なぜ、「へんがん」ではなく、「へんがお」なのか? たぶん、話し言葉で「あ、○○ちゃん、変な顔〜」→「へんかお」→「へんがお」と定着し、それに漢字をあてはめたと思われる。同じく体に関する漢字を使う「変身」「変人」「変体」は全て音読み+音読みなので、重箱読みの「変顔」は特殊である。
従来の「変○」の出自は書き言葉であろう。漢語を日本語発音読みして生まれた漢文の流れを汲む。
「変身」は小説やTV番組での多用で一般的になった。「変人」は「変な人」の書き言葉だが「へんひと」にはならない。「変体仮名」 (*2)という言葉は日本語研究のための用語なので明らかに書き言葉である。いずれも、従来の「変○」は音読み+音読みの方が語呂がよく、それしか考えられなかったが、「変顔」は話し言葉先行のため音読み+訓読みが抵抗なく受け入れられたというのが筆者の見方である。
[参考文献]
(*1)2001見坊豪紀「三省堂国語辞典第五版」三省堂
(*2)変体仮名・・・現在のひらがな以外の形のひらがな(異字体)を指す。
現代では、そば屋の暖簾などにわずかに使用例がある。
国立国語研究所データベース
2015.5.15 掲載
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