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第44回 まぎゃく(真逆)(3)


杉本つとむ(2006)によれば、古くは万葉集で「まさか」に「真坂」が当てられており、「(まさに)今、」というような解釈がされている。明治以降、「真逆」(志賀直哉)、「正可」(坪内逍遥)、「正可」(二葉亭四迷)など、いろいろな漢字が当てられたが、結局は「真逆」が定着した。「まさか〜でない」というように打消しの言葉を伴って、「万が一でも、(〜ない)」という意味が主流になったとのことである。意味がかなりずれるが、

〜そこらじゅうの大杉を根こそぎ抜き取って 真逆様 に突き刺したという。
(稲 雄次(2005) 『ナマハゲ』秋田文化出版)

のように、「真逆様」(まっさかさま)という表現を好む作家もいる。
  しかし、近年では、「まさか」は

浅田真央、まさかのショート16位 トリプルアクセル転倒 キム・ヨナが1位
(ハフィントンポスト日本版)

というような、連体詞的な遣い方が多くなってきている。

この場合、「予想していた結果とは正反対の結果になった」という意味だから、「まぎゃくの」と意味が非常に似ている。。。。つまり、元々「まさか」だった「真逆」を「まぎゃく」と読ませることも道理であると言える。

国立国語研究所HPで検索すると、「まぎゃく」としての「真逆」の初出は2003年頃であり、初期の用例としては話し言葉を文章にした内容がほとんどである。
  しかし、「真逆」(まぎゃく)はここに来て純粋な書き言葉にも進出し、

〜これは権利条約の趣旨である「他の者との平等」や「合理的配慮」とは真逆の発想である。
(青木志帆(2014)「WEB論座」朝日新聞デジタル)

という表現も見られるようになり、完全に市民権を得てしまった。

「逆」→「真逆」への変化の波はもう止められない。そうなると、「逆に。。。」は別に「真逆」ではない場合も大手を振って使えるようになったのである。「逆に」好(ず)きな皆さん、おめでとうございます。(この稿おわり)

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[参考文献](「まぎゃく(真逆)(1)〜(3))
宮野準治・飯泉恵美子(1997) 『英文契約書の基礎知識』ジャパンタイムズ
杉本つとむ2006『気になる日本語の気になる語源』東京書籍
町田健2009『変わる日本語』青灯社
国立国語研究所データベース「少納言」
青木志帆2014年1月28日「WEB論座」朝日新聞デジタル
ハフィントンポスト日本版


2014.6.15 掲載



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