当初、話し言葉で広まった「まぎゃく」だが、書き言葉にも「真逆」として使われるようになるまでに時間はかからなかった。「間逆」と書く人もいるが、「真逆」が主流だ。
この場合の「真」は「ほんとうに」とか、「真正の」という意味を表し、「真逆」(まぎゃく)という湯桶(ゆとう)読みになっている。熟語の内、訓読み→音読みの順番に読む言葉の総称を湯桶読みと呼ぶと、小学校で習ったことを思い出す人も多いだろう。
しかし、「湯桶」という言葉自体、私の小学生時代からすでに一般的ではない。手許の辞書(注*1)では、なんと「湯桶読み」はあっても、「湯桶」の項が載っていないという不思議な現象を見ることができる。誰でもわかる「重箱(じゅうばこ)」と並び称せられるのは「重箱」に失礼である。今後は「真逆(まぎゃく)読み」としたらどうだろうか?
ところがこれを文字にした場合は「真」と「逆」が並ぶと、論理学用語の「真(しん)」と「逆」のような印象を人に与えてしまい、またまた混乱する。「逆もまた真なり」という言葉もあり、ラテン語由来の「vice versa」(逆も同条件と見做(な)す)は英文契約書によく出てくる。
つまり、「真逆」が「大小」「正負」と同じように正反対の言葉を並べた熟語のような気がしてしまうのだ。
また、「まさか。。。」と言う言葉も漢字表記は「真逆」だ。
〜「軽率でしたでしょうか」 保田は、出来るだけ暗い声で云った。
「 真逆 その講習も詐欺だとか」「詐欺だろ」それも修太郎はあっさりと云う。
(京極夏彦1998『塗仏の宴 宴の始末』 講談社)
という漢字による「真逆」(まさか)は近年珍しい用例になってしまった。現代は副詞のほとんどをかな書きする傾向なので、文章中での「真逆」はこの「まさか」ではなく、「まぎゃく」と読みたくなるが、古い世代だと「まさか」と読みたくなる人も多いだろう。(つづく)
(注*1)見坊豪紀・他2001『三省堂国語辞典第五版』三省堂
[参考文献]
町田健2009『変わる日本語』青灯社
国立国語研究所データベース「少納言」http://www.ninjal.ac.jp/database/
2014.5.15 掲載
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