そして、違った意味の「大丈夫」もある。
この「大丈夫」は、「まちがいなく」という意味を表すこともあり、明治期の小説に
「そんなことは大丈夫ござゐません」(樋口一葉)
という例がある。普通の形容動詞「大丈夫(だ)」と違って副詞として使われるが、最近ではほとんど見ない表現である。
最近映画化された「だいじょうぶ3組」(乙武洋匡・作)の場合は「まちがいなく」という意味の副詞にもとれるし、「3組(は)だいじょうぶ(だ)」の倒置としての形容動詞にも解釈できる表現で面白い。
香港映画にも、「大丈夫(dàzhàng ・fu)/Men Suddenly In Black」(2003年)という作品があるが、これは「立派な男」という意味だ。つまり、ご本家中国では現代でも、「大丈夫」は本来の意味だけで、「丈夫」と言うと、夫(だんなさん)を指すこともある。
さて、「グラスは一個で大丈夫ですか?」の「大丈夫」は「いい」、「よい」、「OK」程度の意味であり、言葉の価値が下がってしまっている。
これもまた、言葉の価値逓減、つまりインフレ化進行の法則通りの変化である。元々、普通は瓶ビールにグラスは一個でいいのだろうが、アルコールに弱いために最初の一口だけ、ビールにつき合う人もいる。その人のために、グラスを余分に持って来させたのがきっかけで、店員が気を利かせるようになったのであろう。
グラスの到着の遅れは乾杯の儀を遅らせる。それは一大事だ。「大変な危機を回避するためにグラスがもっと必要でなくて大丈夫ですか?」という親切心だったはずだ。それが全員アルコールを注文した場合でも確認するようになったのであろう。親切すぎる国ではある。
ともあれ、「大丈夫」の価値は下がった。
今や、ころんだ人にかける言葉として、「大丈夫ですか」程度では用をなさない。「巨大丈夫ですか?」とでも言おうか?
いや、40〜50代位の世代の男がころんだ時は「ガンダムですか?」、これでどうだ。
[参考文献]
1990日本大辞典刊行会「日本国語大辞典」小学館
ネット版「中国語辞典」白水社
[協力]
ジャッキー小澤
2013.4.15 掲載
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