とりあえずビール。瓶ビールを頼む。他の人はほとんどジョッキの生ビールなので、いつも瓶は筆者だけだ。「グラスはおひとつで大丈夫ですか?」と聞かれることがある。
先日は一人で入ったファミレスで、「グラスはおひとつで大丈夫ですか?」と聞かれた。
10年位前から、こんな「大丈夫ですか?」が氾濫するようになった。
道端で誰かがころんだ時に、「大丈夫ですか?」——それが、この言葉の今までの使い方だった。もっとも、ころんだ拍子に頭を打って、意識を失っている人に「大丈夫ですか?」とは言わない。明らかに大丈夫じゃないからである。その場ですぐに119番する必要がある。「大丈夫ですか?」は「危険に耐えられましたか?」ではなく、「お変わりありませんか?」程度の声掛けである。
本来の「大丈夫」は立派な男一般を指した。周(紀元前11〜3世紀頃の中国)では、一人前の男を「丈夫」と言った。八寸=一尺、十尺=一丈というのが当時の長さの尺度で、一丈を一人前の男子の身長とした。となると、一丈は約2.64m(*)となり、非現実的ではあるが、その考えには幻想や偶像が入っていたのであろう。寸、尺は尺貫法の単位であり、筆者の一世代上の人までは身近だった。「寸止め」、「寸志」などという言葉にその名残りがある。
映像制作業界での「尺」も健在である。「このCMの尺は15秒と30秒だよね。」などと使う。
この「丈夫」に「大」をつけた「大丈夫」は「立派な男」という意味だった。つまり、ころんだ人を見た時の「大丈夫ですか?」は「(あなたは転倒という危険に耐えられるだけの)立派な男ですか?」という意味合いである。
つまり、意味が拡張されているわけである。
でも、幼児がころんだ後にすぐ起き上がって、「ボク、だいじょうぶだよ」と言ったら、それはどうとらえたらいいだろう。
「ボク、強くて立派な男だよ」というような意味になり、本来の意味そのものになるわけで、ほほえましい表現ではある。
そして、違った意味の「大丈夫」も明治・大正期の文学作品に見られる。
(つづく)
2013.3.15 掲載
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