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第20回 絆−きずな(2)


2011年末、結成された新政党は「新党きづな」と名乗った。昔から政党名はほとんど漢語だったが、このように和語が使われるのは珍しい。
    訓読み、つまり和語では「きずな」。戦前の歴史的仮名遣いでは「きづな」と書いた。
  戦後、公布された「現代かなづかい」(1946年)で表記は「きずな」となり、さらに改正された「現代仮名遣い」(1986年)では原則「きずな」で、「きづな」も許容することとなった。

そもそも、「ズ」(ず)と「ヅ」(づ)は言葉によってはどちらにしようか迷う表記である。
  それもそのはず、現代日本人の普通の発音で単語の語中では「ズ」と「ヅ」は同じ[zɯ]という発音(歯茎摩擦音)だからだ。
  [ɯ]は唇を丸めない日本語の母音「ウ」を表わす。

しかし、古くは「ズ」と「ヅ」は区別され、さらに昔は「ヅ」は「ドゥ」という発音だったらしい。1000年位前までダ行は「ダ・ディ・ドゥ・デ・ド」だったというのが定説だ。ディとかドゥとかいう発音は筆者より古い世代では不得意なのだと思い込んでいた。明治期以降、外来語の流入により日本語化した言葉にしか現れないと思っていた。その証拠に筆者より古い世代ではディズニーではなくデズニーと発音する人が多かったし、同世代でも東北、九州出身の人に「デズニー」と言う人がかなりいる。
  また、今でも飲食店でよく見かける「drink」という表示を多くの人は「ドリンク」と読む。最初の「ド」は[d]ではなく母音付きで、[do]と読まれる。

ところが、古くは「ヅ」が「ドゥ」と発音されていた痕跡が方言の一部では残っているという。
  古代における日本の中央での発音や言葉が今も方言として残存しているケースが多いことにより、日本語の歴史を推定できるのだ。
  1902年生まれの宮崎県の人が「崩す」を「クドゥス」と発音している録音が残っているそうだ。
  見方を変え、幼児が母親に絵本を読んでもらって、不満そうに「この続きはいつ読んでくれるの?」とか唇を丸めて言うのを真似するときには、「コノトゥドゥキは〜」となるような気がする。
  つまり、舌足らずの「トゥ」「ドゥ」の方が原初的な人の発音に近いと思われるのだ。
  ・・・・さて一方、漢字の「絆」の方だが、これがまた問題だらけなのだ。(つづく)

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[参考文献]
和田利政・金田弘2003「国語要説五訂版」大日本図書
林健太郎2010「國學院大学文学部日本語学概論」(講義)
上野和昭2012「早稲田大学文学部日本語学概論」(講義)

2012.6.15 掲載



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