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第19回 絆−きずな(1)


東日本大震災以後、急に多用されるようになった言葉である。
  以前この連載でも書いたが、この漢字の元々の意味は家畜をつなぎとめる紐のことだそうだ。音読み、つまり元々の漢語ではハン、バンであり、意味を表す糸ヘンと音を表す半とを組み合わせた形声文字である。
  どの辞書にも

(1) 牛、馬などの家畜をつなぐ綱
(2) 断ち切ることのできない愛情  (1958金澤庄三郎編「新版広辞苑」三省堂)

。。。というような内容のふたつの意味が記されている。
  元々は物理的な物体を表す言葉が精神的な関係を表すように意味が転じたと言える。

世は空前のペットブーム。来訪者を威嚇するかのように玄関前に繋がれた犬をあまり見かけなくなった。正確な統計は無いだろうが、現代では室内飼いが多数派なのではと思う。

愛玩用ではなく畜産の世界でも、近年ではヨーロッパからアニマル・ウェルフェア(animal welfare)という概念が取り入れられているのだそうだ。
  いずれは食用になってしまう牛や豚でも、飼われている間はストレスなく過ごさせ、ひいては質の良い肉が育つという考え方で、檻で飼うのではなく、放牧が原則である。

とは言っても、人間が食用のために拘束していることには変わりない。法然の「悪人正機説」によれば、生きものが生きるためには必ず他の生命を犠牲にしなければならない。
 一定範囲内で他者を排して独占すれば、動物は逃げ出せない。動物は自由を奪われているが、でも、だんだんと帰属意識が湧いて来て、お互いの信頼に繋がると言ったら言い過ぎだろうか?

思えば、人も何かに所属していれば、相手をある程度拘束している。拘束されている。
そこには規則があり、規則がなければ暗黙の慣習がルールになる。
  拘束が信頼を生み出せば、信頼されることにより拘束状態は安定する。
  夫婦、家族、各種組織然り。
「絆」の原義(1)と転義(2)は実は表裏一体なのだ。
  ・・・・ところで、この「きずな」の「ず」の表記だが、これを調べ出すといろいろ興味深いことを知る。(次回につづく)

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[参考文献]
2002 見坊豪紀・他編「三省堂国語辞典」
2012 五木寛之-阿川佐和子対談「週刊文春5月17日号」所収・文藝春秋

2012.5.15 掲載



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