さて、この「サマータイム」、ヨーロッパ諸国では昔から継続的に採用されている。わが国では1949(昭和24)年から3年間だけ実施されたが、なんと当時発行の「現代用語の基礎知識」(1948、自由国民社・復刻版)には堂々と「サンマータイム」と掲載されている。
実施中は賛否両論があり、1951(昭和26)年には内閣府政府広報室が世論調査を行ったが、この資料にも「サンマータイムの世論調査」と書かれており、俗語というだけでなく、お上も「サンマータイム」と国民に通達したようだ。一瞬、目を疑う表記だが、事実である。
「マ」の前にわざわざ「ン」(発音は[m])を挿入している。古今東西、言葉はどんどん短くされる傾向にあるが、わざわざ長くしてあるのだ。「ン」は撥音という用語で分類される音だ。
元々、外来語を日本語化する際に、子音nの直前に撥音(この場合は[n])を挿入することは時々見られる現象で、服飾用語のインナー(inner、英語では[inə])、運動用語のランニング(running、英語では[r˄ning])、野球用語のインニング(inning英語では[ining])が例として挙げられる。インニングに関しては、近年はイニングと書かれることが多いが、野球の普及に貢献したとされる正岡子規は「インニング」と書いており、長い間、それが踏襲されてきた。
いずれにしても、「サマータイム」も含めて、英語のスペルから引っ張られた現象であることは想像に難くない。
日本語の方では、例えば「案内(あんない)」[annai]という言葉には撥音→n子音の連続があり、時を経ても、「あない」[anai]という発音にはなっていない。また、「あんまり」[ammari](副)という言葉は元々の「あまり」にわざわざ撥音を添加して派生させている。
つまり、日本人は撥音→n(m)子音の連続を苦にするどころか、案外好きらしいということがわかるのだ。
[参考文献] 1978「現代用語の基礎知識 1948年復刻版」自由国民社
[参考文献] 1988「ことばの探偵〈ちくま文学の森14〉」筑摩書房
2011.10.15 掲載
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