この夏は久々に「サマータイム」という言葉がマスコミに多く使われた。
東日本大震災後の電力供給不足対策のために、始業時刻・終業時刻の繰り上げを実施した企業が増えたのだ。例えば通常だと9:00〜18:00の終業時間を8:00〜17:00にする等である。本来は12:00〜16:00頃の需要ピーク時間帯だけが供給不足なので、あまり意味のない対策だ。ラッシュアワーでの通勤電車混雑の緩和にはなるものの、大多数が実施すれば、また同じことになる。
そもそも、「サマータイム」(summer time)は夏季に一時的に標準時を1〜2時間前倒しする方策のことで主にヨーロッパで普及している。つまり、時計を早めることによって、現在の8:00を9:00に変更してしまうのである。この夏、日本語の「サマータイム」はすっかり別の意味になってしまった。
もっとも、日本のすべての国民、会社が8:00を9:00と読み替えて行動すれば、本来のサマータイムに近づくがそれはありえないだろう。この夏はこの「サマータイム」の意味が一気に拡張されてしまった。
とは言え、元々は単に夏季を表す意味だけのはずが、「夏季時間」の意味も追加された言葉だろう。
「サマータイム」と聞いて、思い出すのは歌のタイトルである。同名異曲は多いが、誰もが思い浮かべるのがオペラ「ポーギーとベス」の挿入歌、「summer time」(words by Du Bose Heyward & Ira Gershwin, music by George Garshwin)である。
この曲は子守唄であり、その冒頭は、
Summer Time,
The livin' is easy,
と歌われる。
The livin' is easy, の部分が「過ごしやすい季節」と訳される場合と「暮らし向きが楽だ」とする訳を見かける。このオペラの舞台、アメリカ南部の気候は温暖湿潤性気候であり、日本の太平洋側と同じような気候のはずである。ケッペンの気候区分ではCfaである。
夏は30度以上になることが多く、最低気温も25度位で「夜が過ごしやすい」わけはないのでは? と思う。この曲の次のフレーズには、
Fish are jumpin'
And the cotton is high
とある。つまり、いろいろ収穫が多くて、「暮らし向きが楽だ」の方が正解に違いない。
さすがに開拓の国だ。日本の子守唄に比べると、ずいぶん現実的ではある。
(次回に続く)
協力:遠山顕(COMUNICA,Inc.代表、NHKラジオ英会話講師)
2011.9.15 掲載
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