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第7回 「スマホ」


若者は親指小刻み動作が得意だ。ケータイでの文字打ちである。
  それが、画面を親指と人差し指とで画面を直接タッチ、スライドさせる人が増えてきた。

タブレット型多機能携帯電話をスマートフォンと呼ぶ。
  「スマート」(英:smart)は日本語ではもっぱら「スタイルが良い」意味で使われるが、本来の英語では「頭がいい」ニュアンスのようだ。手許の英英辞典では、「having or showing intelligence」(*)とある。

ところで、スマートフォンを新聞やネット・ニュースの見出しでは「スマホ」と略す。見出しはスペースの関係でとにかく短い方がよいのだが、「スマフォ」ではなく、「スマホ」が定着している。
  どうして [f] を [h] にしてしまうのか、表記に気を付ける人にとっては気分がよくないだろう。

まあ、日本人、実際は下唇を噛んで [foun]などと発音していないのだから、「ホ」の表記の方が発音に忠実だ。ところが、元々日本語の「ホ」は[Φo]と発音されていたらしいというのだから驚く。江戸時代以前のことだ。この[Φ]は英語の [f]と違って下唇を噛まない「ふ」という音だ。どうしてそんなことがわかるかというと1516年に出された研究書、「後奈良院御撰何曾(ごならいんぎょせんなぞ)」には「父には(唇が)出会わず、母には(唇が)二度触れ合う」という記述があるかららしい。

つまり、「母」は[ΦaΦa](ファファ)と瞬間的に唇を二度合わせて発音していたらしく、その昔、ハ行の子音はすべて[Φ]だったと推定されているとのことだ。(**)
  そういえば、現代人も「スマートフォン」を発音する際に、わざわざ下唇を噛まないが、実際の発音は[Φ]の人と[h]の人と両方存在するだろう。つまり、[Φo]の人の発音を「ホ」と表記することは元々の英語と関係なく、日本語の先祖帰りとなったという無理やりな解釈をしたくなり、興味深い。

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(*) 1997 「オックスフォード現代英英辞典第5版」開拓社より
(**) さらにそれ以前のハ行の子音は[p]の発音と推定されている。
[参考文献]山口仲美 2006「日本語の歴史」岩波新書

2011.5.15 掲載



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