2010年の書籍ベストセラーのひとつに「もしドラ」がある。
「もし高校野球の女子マネジャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら」という長いタイトルが「もしドラ」と略された。このような場合、タイトルが長すぎて、読者にわかりづらいだろうという心配は無用で、内容さえ良ければユーザーやマスコミが勝手に省略呼称を作ってくれる見本である。
「も」と「ド」の母音が力強い[o]で、「ラ」の母音が明るい[a]なので、メリハリが効いている。
この構造は「のだめ」(のだめカンタービレ)に近い。
同年に現れた新しい言葉にはもうひとつ「ドラ」が含まれた言葉がある。「ドラ一トリオ」(ドライチ・トリオ)である。
早稲田大学野球部の4年生投手が強力布陣で、斎藤、大石、福井の三人共、プロ野球新人ドラフト会議での一位指名だったのだ。
この「ドライチ」は中高年の男たちが学生時代に盛んに遊んだ麻雀の専門用語、「ドラ」を連想させる。麻雀の「ドラ」は元々ドラゴン(dragon)が語源のようで、迫力あるイメージが野球のドラフトに援用されたのであろう。
麻雀のドラは自分の牌とは関係のない場の中のひとつの牌を裏返し、その次の順の牌を持っていると、上がった時の付加得点となる。自らのアピールや意志が全く反映されず運を天に任すしかないドラフト制度との間に見事な共通点を見出すことができる。
「ドラ」はドラマ(drama)を略した「朝ドラ」、「連ドラ」で耳に馴染んでおり、「ドラマティ(チ)ック」(dramatic)はもはや日本語化している。
また、「ドラえもん」は国民的人気、いや世界的な人気漫画で、作中の魔法の使い方も暴力や変な策略には無関係で、万人に愛される内容だ。
外来語から発生の「ドラ」語の場合、本来は子音[d]だけの発音に母音を付加して[do]とするのが常だが、かえってその方が力強く感じる。
「ドラ」は「力強いと共に愛される」印象の良い語である。
2011.1.15 掲載
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