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Vol.13 - 時給700円 〜 僕はニート3 〜


最近フリースタイルライフという新しいWEBマガジンの創刊にやっきになっている。(11月中旬公開予定)
http://www.freestyle-life.net/
目標は大きく、書店にならぶ雑誌と闘えるくらいのものを目指している。(また、だいそれたことを…)
それにしてもWEBって凄いなと思う。
昔だったら資本力が無ければとうてい持てなかった自分のメディアというものを持つことが出来る。
これは本当に凄いことだと思う。
でもインターネットは諸刃の剣。
いい面と悪い面を合わせ持っているメディア。
僕はこのフリースタイルライフは一杯体を動かして汗をかいたWEBマガジンにしたいと思っている。
生身の人間を感じることの出来るWEBマガジン。
皆さんぜひよろしくお願いします。

君も自由型でいかない!?


***


世界なんか壊れちまえばいいと空を睨む18才の春。
毎日毎日やることもなく部屋で寝転ぶ。
たまに絶叫したいような衝動に駆られ、そんな思いを鎮めるべくウィスキーとかワインを昼日中からがぶ飲みしたりする。

この頃僕はロバート・デ・ニーロの映画「タクシードライバー」を初めて見たのを憶えている。
TVで放送していたんだけど、心の底からぞっとした。
主人公であるタクシードライバー"トラビス"がまとう孤独の影があまりにリアルで僕ははっきりとこう思った。
"こんな陰惨な人生を送りたくない…"
それから10年間、僕はこの映画を見なかった。
思い出したくもなかった。
思い出すと僕自身がトラビスになってしまいそうな錯覚を覚えた。
今はマーティン・スコセッシ監督の映像美の素晴らしさを理解できて冷静に見れるんだけど、その頃はただただこの映画の世界観が怖かった。
この映画を同じような気持ちで見た人はいったいどれくらいいるんだろう。
僕はそういう人とならきっと一生仲良くできるような気がする。

何もしない日々は人間を確実に腐らせる。
人間の70パーセントくらいは水だというから人間が腐るというのは本当だと思う。
淀んだ水は腐臭を発し、ドロッとし濁ってゆく。
心も同様に。
腐ってゆく日々に僕の肉体は悲鳴をあげる。
そして本能的に強引に肉体が肉体自身をリフレッシュさせようとする。
それが全身を襲う震えだったり、絶叫したいような衝動だったのだと思う。
体は常に生きようとしている。

腐ってゆく日々をどうにかしたかった。
その方法として僕はとにかくバイトでも何でもしなければと思った。
だから新聞に折り込んである求人情報なんかをよく見た。
社会に参加しようというような前向きな動機ではなく、とにかくこの部屋を出る方法を手にしないと自分はもう終わりだという思いが強かった。
いわば緊急避難。
そんな気持ちでバイトを探した。

バイト先はとなり町のファーストフード店にした。
その系列の店は高校生の頃に少しバイトしたことがあったから、すぐ採用された。
僕は朝から夕方までのシフトで採用された。
時給は多分700円くらい。
母親にそのことを告げると、彼女は"そう。。。"とどこか微妙な顔をした気がする。
18才になり他の子は学校へ行ったり、ちゃんと就職したりしているのに、自分の息子は時給700円。
一日8時間働いて5600円。
月に20日働いたとしても112000円。税金が引かれて10万円くらい。
不安だったろうな。きっと彼女も。ほんとそう思う。
親不孝者だ。

バイトははっきり言ってつまらなかった。
昼の部は僕と社員の男と主婦のパートさんだけ。
バイトでもすれば新しい友達でも出来てきっと楽しく過ごせるという思いは全くかなわなかった。
社員の男とも上手くつきあえず、お互いほとんど会話をしなかった。主婦のパートさんとも当然話なんかしなかった。
昼休みになると一人で近くのお弁当屋かなんかに行く。
そこで粗末なおにぎりかなんかを買って一人で食べる。
そんな毎日。
暗い毎日だった。

ある日こんなことがあった。
いつものようにお弁当屋にいくとBGMで有線が流れていた。
僕はハッとした。
僕が昔大好きだったバンドの最新曲だった。
信じられないくらいカッコいい音だった。
あきらかにバンドとして成長していた。
僕は打ちのめされた気がした。
まわりだけが僕を置いて進んでゆく。
そんな思いに打ちのめされた。

バイトには早番と遅番があった。
僕は早番。
夕方になると遅番の子たちがやってくる。
お店は夜のほうが忙しいから夜のバイトのほうがたくさんいる。
遅番の子は高校生や大学生がメインでみんな本当に楽しそうに出勤してくる。
みんなで休みをあわせて遊びに行ったり、仕事が終わったら飲みにいったりしているみたいだった。
恋愛関係にあるものもいるみたいだった。
そんな彼らのことが僕は頭がおかしくなりそうな程うらやましかった。
僕は彼らから見ればどこか空気の違う近寄りがたい人で、話すこともないし、ただすれ違うだけだった。

皆のように、どうして僕は上手くやれないんだろう。楽しくやれないんだろう。
そういう思いをいっそう強くして僕はいつも一人だったのを覚えている。

寂しくて寂しくて夜中ただ一人で酒を飲むだけだった。
そしてそのうちバイトにも行かなくなった。
そしてまた部屋で一人空を睨む生活に戻った。


2005 11-3 MIZK
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