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Vol.12 - 世界なんか壊れちまえばいい 〜 僕はニート2 〜
この前、何かの雑誌でこんな感じのエッセイを読んだ。
確か映画紹介の話なんだけど、その主人公がひたすら不幸。
(確か、そして一粒のひかりとか言う映画だったかな。)
貧乏な女の子の話なんだけど、その女の子が好きでもない男の子供を妊娠してしまう。
お金もなく家族の愛もなく仕方なくその主人公は子供を生むために麻薬の運び屋になる。
運ぶ方法は麻薬の入った大量のカプセルを飲み込んで飛行機に乗るというもの。
すごく危険な仕事で運搬中におなかの中でカプセルが壊れたら即死。
その映画を見たエッセイストの感想はこうだった。
何ていう不幸な境遇!日本にいるニートとかフリーターとか、本当の自分がわからないとか言う若者全てに見せるべきだ!
それを読んで僕は、言っていることはわかるんだけど、うーん、どうなのかなぁと正直思った。
どういうことかと言うと、僕はこの世で一番辛いことは何もすることが無いことだと思っているんだよね。すなわちこの世界に何も役割がないということ。
それに比べればこの主人公は確かに不幸だけど、つき動かされるような生の衝動がある。ドラマがある。目には見えない運命のエネルギーみたいなものにしっかりと包まれている。
これって何もないよりいいんだよね。変な話なんだけど。
だから僕はもしかしたらこの麻薬の運び屋になった主人公より、今の日本で行く場所もなくやることも何も手に入らない昔の僕みたいな若者のほうが不幸なんじゃないかって思ったんだ。
ふと。
うーん、意味が通じなかったらごめんなさい。
***
高校を出て最悪な社会人スタートを切った18才の頃。
今でいう不安神経症とかパニック症候群だとかだと推測される症状と戦う日々。
(※その頃はそういう名前ってなかったな。最近だよね。よく聞くのは。)
その頃の一日の流れは確かこんな感じ。
目が覚めるのは昼過ぎ、場合によっては夕方なんてこともあった。
目覚めてもやることがないから、まずはタバコを吸う。TVを見る。夜になるといてもたってもいられなくなって酒の自動販売機へと足を向ける。そしてTVを見る。
それだけ。
それだけだった。
確かそれだけだった。
何て日々だ。
でも本当こんな感じだった気がする。
夢とか、こうなりたいっていうような希望はあったかな。
いや、なかったな。あったら苦労しないよね。
そしてその頃のことを思い出していて一つだけ今でも切なくなることがある。
その頃、ひとつだけ欲しいものがあった。
それはラジカセ。
その頃出始めたCDが聞けるタイプのやつ。
僕はこれが唯一欲しかった。
将来の希望とか、しっかりした仕事とかそういうものではなく、僕はこのラジカセだけが本当に欲しかった。
理由は簡単。
いい音が聞けると思ったから。
この頃の僕は自分の未来だとかそういったものに本当にさじを投げていて、自分の人生においてもう望むものは綺麗な音だけとか考えていた。
綺麗な音が聞けるならきっとそれだけで生きていけるんだ…
僕が人生に望むのはもうそれだけでいいよ…
そういう気持ちだった。
これは今でも自分を切なくさせる。
18才の若者がそんなものにしか、すがれなかったという事実が自分のことながら何ていう淋しさなんだと思う。
恋人もいない。
友達もいない。
仕事もない。
夢もない。
未来もない。
金もない。
そしてこの世で欲しいものがCDラジカセだけ。
なんて状況なんだと思う。
うちは母親が家で洋裁かなんかの仕事をしていて、一日中それこそ夜中までミシンの音を響かせながら僕の面倒を見ていてくれたんだけど、そのガガガガガガというミシンの音に自分の惨めさをいつもメッタ打ちにされるような気分だった。
恥ずかしさと情けなさで頭がおかしくなりそうだった。
それでよく家から逃げ出すように外へと出た。
そしてよく夕焼けを見た。
その時、僕はその赤い空を見ながらはっきりとこう思ったのを憶えている。
いっそ、こんな世界なんか壊れちまえばいい。
核戦争でも起きればいいんだ。
そうすれば僕はきっとこのどうしようもなく腐った生活から逃れられるんだろう。
赤い空を見上げながら確かに、確かに僕はそう思っていた。
今でも夕焼けを見るとその頃のことを思い出す。
きっと一生思い出すんだろう。
MIZK 2005-10-22
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