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Vol.8 - クラゲの海


暑い。
暑すぎてついビールなんかをダラダラ飲んだりして自堕落なライフスタイルになってしまう。
ああ。。

思えば僕は昔から自分に歯止めを効かすことができない。
要は甘やかされて育ったということなんだろうけど、自制が効かない。
我ながらアルコール中毒とか麻薬中毒になる人間のタイプだなと自覚している。
そして極度に不安に弱い。
これは今も昔も変わらない。
生活において些細なことにでもかなりナーバスになる。
そしてそれを沈静化させるために酒を飲む。
ウィスキーとか焼酎とかをそのままラッパ飲みする。
それを見て僕の彼女は眉をひそめる。
我ながら嫌な性癖だと思う。

僕は酒を飲まない人を実は尊敬している。
何にも頼らず強くいれる人を尊敬している。


<お知らせ>

唐突ですが8/25の夜、下北沢のロフトというライブハウスでライブをやります。
ミュージシャン名は"裸の言葉"興味のある方は僕のサイトを見てみてください。
http://www.mizk.net/



******



17才の頃。
人が少なくなる8月後半のお盆の海が好きだったのを覚えている。
人が消えてクラゲだらけになった海に不思議な好意を抱いていたのを覚えている。

夏真っ盛り、健康な日焼けした男女が楽しげに砂浜でビーチボールか何かをする光景。
はじけるような笑い声と好意を寄せ合う男と女の目配せ。
これほど孤独なる者の神経をざわつかせるものはない。
まあ、完璧な妬みなんだけど、妬んでしまうのだから仕様がない。
だから僕はここぞとばかりに妬みきっていた。
そして一人で悪態をつきまくっていた。
よーよー上手くやっちゃってよーという感じで。
でも実際に面と向かって言う勇気なんかないから陰で。
(※この辺は今も変わってないかも…)


17才の8月の夜、こんなことがあったのを覚えている。
僕は夜毎の日課であり唯一の楽しみでもある、缶ビールの買出しへと家を出た。
(この頃はまだ350ml缶が350円くらいで今とくらべるとえらい高かった。当然500ml缶は500円くらい。高―!。)

いつもの自販機へといそいそと向かう。
自販機は近所のショッピングセンターの敷地内。
夜になるといつも誰もいない。
しかしその夜は違った。
何か人気がする。
それも一人や二人じゃない。
けっこうな人数の。

僕はとっさに身を隠した。
僕は中3のリンチ事件の頃から極度に臆病になっていて、何か危険な匂いみたいなものを感じる感度が高い。
それは今も続いていてやばい奴はパッと匂いでわかる。
街でも盛り場でも電車の中でも。
そして極度に緊張する。
いわゆるトラウマか。

怖いんだからそこで引き返せばよいのだろうけれども、しかしそうすると今夜のビールがなくなる。
それは困るなあ。という理由で僕はおそるおそる状況を見極めることにした。
陰に身を潜め覗き見る。

しかし見た瞬間、"ああ、来なきゃ良かった…"と思った。
一番見たくない光景だった。

原付にまたがった複数の男女。
がらの悪いじんべえをまとったパンチパーマ。
あたりに散乱する空の缶ビール。
何かが入れられていたビン。
離れていてもわかるシンナーの匂い。
めちゃめちゃに吸われるセブンスター。
下卑た笑い。

そして垣間見える知った顔。
かつて同じ学校に行っていた顔。
僕に暴力を振るった顔。

はっきり言って僕は35になった今でも中学生の時の事件に心を鷲づかみにされている。
そのトラウマはまだ癒えていない。
残念だけど。

僕はその光景にひさしぶりにゾッとするような悪寒を感じた。
そして咄嗟に"逃げなきゃ!"と思った。
そして静かに気づかれないように後ずさりした。
だけど、ここでもう一人の僕が心の中で叫んだ。
"いつまで逃げるんだ!?"
僕はこの相反する衝動に動けなくなった。
本当に動けなくなった。

一人の自分は"逃げろ!やばいぞ!"と言う。
もう一人の人間は"死んでもいいから、立ち向かえ!そしてケリをつけろ!"と言う。

どっちも本心。
嫌な汗をダラダラ流しながらただ陰に身を潜める。
何分たっただろうか。
ものすごい長い時間だった気がする。


30分後、僕は、静かな夜の道を歩いていた。
一人で歩いていた。

そう、
逃げた。
僕は逃げた。

僕はヒーローじゃない。
勝てるわけがない。

泣きながらそう言い訳してトボトボ歩いたのをよく覚えている。

自分の弱さがはがゆかった。
そして今でもはがゆい。


2005-8-18 MIZK
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