チロルでスキー その二
何故このスキー場に出会ったか、についてお話ししましょう。
以前「南北チロルの旅」でインスブルックの横光利一が泊まった宿の跡が、クライドという同名のカフェとして残っていることに触れました。
その時の体験から横光は『旅愁』の中でインスブルックを登場させています。
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パッチャーコーフェル山頂駅。背後に見えるのがインスブルックの街 |
午前中に、主人公の二人、矢代と千鶴子は街の北にある公園を通ってハーフレカールに登る登山電車の駅へ行きます。二人はその山麓でミルクを飲みます。場所は特定できませんが、登山電車を下りてゴンドラに乗り継ぐ山の中腹には綺麗なカフェがあります。
問題は二人の午後の行動です。
「・・・登山バスに乗って山の中腹まで行った。・・・
山の中腹でケーブルに乗り換え、さらに山頂まで二度ほどのレールを変えた。ケーブルの下は花の野の斜面であった。街が次第に低く沈むに随い、横を流れる河が渓間に添いウイーンの平野の方へ徐徐に開けて行くのが見えた。終点の駅は旅宿をもかねていた。・・・
矢代たちは駅から放れてまた頂の方へ登っていった。・・・・
・・・小屋の番人から、間もなく見える氷河を渡らねば向うの山頂へ出る道は断たれていると聞き、思い出にそこを一度渡ってみようと云うので、・・・」
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横光の泊まったホテル・クライドは、今は同名のカフェになっている |
引用が長くなりましたが、私の知る限りでは、インスブルックの直ぐ近くには氷河はありません。横光がこの地を訪れたのは1936年の6月で、まだ雪渓が残っていたのだろう、というのが私の結論です。
この文章から推測すると、市の南のパッチャ—コーフェルへゴンドラで上り、そこから東へ「ツィルベンヴェーク」を歩いたように思います。
ただこのことが気になってインスブルックの近郊に氷河が無いかと探し回ったことで、シュトバイ・タールに行き当たりました。ここの氷河に架けられたゴンドラは第二次大戦後のものです。横光がこの地を訪ねた時にはまだ存在していません。
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「ツィルベンヴェーク」の風景(その1) |
また横光には思い込みがあって、ここからの景色として、次のような文章が続きます。
「・・・ドイツの国境の山山は藍紫色の断崖となって立ち連なり、・・・スイスの山山が天と戯れつつ媚態をくねらせ、日光に浸った全面の賑やかさの中から白い氷の海が見えて来た。」
ここから真正面の北の方角がドイツですが、果してドイツの山が見えるのか微妙です。
スイスについては、アールベルク峠の遥に西で、ここからは絶対に見えない、と断言できます。どうしてこんな思い込みをされたのか、興味があります。
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「ツィルベンヴェーク」の風景(その2) |
今回はスキーの話から脱線しましたが、写真でチロルの夏と冬を楽しんで下さい。
2005.6.29 掲載
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