第一回の勉強会では、環境エネルギー政策研究所(isep)所長の飯田哲也氏に講師をお願いし、これからのエネルギー政策について考えました。勉強会のようすは、isepのユーストリーム中継アーカイブにてご覧いただけます。 (※ロゼッタストーンでも中継したのですが、音質、画像ともプロの技にはとてもかないませんでした)
第1回 「理想国会」勉強会要旨
これまで自然エネルギーに関しては、日本人全員が頭にギブスをまかれて、「自然エネルギーではやっていけない」と、洗脳されているような状態だった。311以後の原子力をめぐる世の中の変化は、ちょんまげの着物姿から洋服に着替えるぐらいの大きな変化である。ただし、まだ変化が生じたばかりで混とんとしている。
●あまりにも稚拙な政府の対応
福島の事故が起きて、「これだけは早めにやらなければいけない」というのを3月の終わり位に提言したが、何一つとして完全なものができていない。政府のやり方は、あまりにも稚拙で、戦略に欠け、泥縄的である。
浜岡原発が「停止した」ことは、菅首相の判断をほめてもいいが、残念なことが3点。1つは遅すぎること。ドイツのメルケル首相は、原発事故からわずか3日後の3月15日には古い原発7基の停止を命令している。当時者の日本が2か月かかってしまった。2つめは「停止命令」ではなく、「停止のお願い」だということ。とめるかどうかの判断を中部電力にまかせる無責任さ。3つめが一番深刻だが「浜岡以外はとめない」と言い出した。この論理のなさはどうしようもない。
しかも、そこから「電気が足りない」キャンペーンが始まった。我々は即座に分析結果を出しているが、浜岡原発をとめても電力に余裕があることはデータを見れば明らか。いちばん厳しい東京電力でさえ、足りることははっきりしている。これは、間違いなく、電力会社と経産省がしくんで、それに古いメディアがのっかった、浜岡以外をとめないための援護射撃である。
●「無計画停電」は回避できる
電気が足りなければ、使う電気を減らせばいい。といっても、「計画停電」という名前の無計画停電ではなく、利便性を失わず、病院や信号などの公共的な需要を優先し、企業のサプライチェーンもずたずたにしないやり方がある。需給調整契約(*)を戦略的に積極的に活用すれば、経済にそんなにダメージを与えることなく、中部電力でだいたい500万キロワット、東京電力でだいたい1000万キロワット押し下げる効果がある。それで全面停電は回避できる。今年の夏電気が足りるのであれば、今年の冬も来年の夏も電気は足りる。化石燃料に頼らなければいけない面はあるが、少なくとも電気が足りる。あとは腰をすえて、10年の計でエネルギーシフトをしっかりはかっていけばいい。
*需給調整契約:電力の大口消費者(大規模製造業者など)に、電力需給が逼迫した際の消費を抑えるよう求める契約。契約者は、操業の一時停止などをする見返りとして、平常時の電気料金の割引きなどを受ける<デジタル大辞泉より>
●安全性の確保と、損害賠償の問題が重要
大前提になるのは、原子力をどう考えるか。国民はいま原子力に関して非常に不安な思いがあり、原子力をやめてほしいという人が非常に多い。一方で、「原子力村」の住民は、いまでも安全性を高めれば原子力は非常に大きな役割を果たすと言っている。
まずは現実に立つ。賛成とか反対とか好きとか嫌いをのぞいて、事実と論理と合理性で考える。「絶対に爆発しません」といったすぐ後に水素爆発したり、「スピーディ」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)といいながらスローリィにデータが出てきたり、原子力は安全だ、クリーンだと言ってきた人たちがまるで信用できず、安全審査もまったくしていなかったことがわかった。これまで指摘されていた問題点もまともに考えてこなかった。安全基準も安全審査体制もまるで無効。自動車でいえば、無車検運行であるばかりか、陸運局そのものがにせものの存在だったような状態である。
もうひとつは、原子力の損害賠償の問題。原子炉一基あたりの価格1200億円に対して、損害賠償するとなると、10兆円はかかるのではないかという見通しもあるほど。損害賠償保険の枠組みや、具体的な適用策を一から見直さないといけない。いまの枠組みでは、一基ふっとぶと、それがただちに国民の負担になるような状況。
●既設炉にはせめてストレステストを
そうするとただちに論理的に導かれる3つのことがある。
ひとつは新増設、これは建設中も含めてこれはただちに凍結。もちろん将来再開もありうるが、上の2つが整わないと再開できるかどうか判定できない。いま建設中のものについては、基本的に電力需給と関係ないわけだから、ただちに凍結する。
2つめに核燃料サイクル。これは実態としてはもう、勝手にこけて凍結になっているが、政策的政治的に凍結させる必要がある。
3つめは既設炉をどうするか。既設炉は、いちばん強い立場に立てば、全機凍結。多少は動かしてもいいのではないかという立場に立つのであれば、暫定基準、いわゆる仮免許をもうけて、ストレステストを与え、動かす炉と動かさない炉を判断する。なんのストレステストもせず、「浜岡はとめるけど、他はとめない」というのは、きわめて乱暴。
●世界の原発の平均寿命は22年
世界の原子力発電所、これまで130基シャットダウンされているが、その平均寿命は、だいたい22年。日本の原子力発電所は、30年が最初の運転認可で、その後10年ごとに認可を出すことになっている。福島は30年で認可されてちょうど40歳の原発。そんな古い原発は世界にほとんどない。本来であれば30年、長くとも40年で閉鎖すべきというのが原子力発電所の寿命。
●原発がまかなえる電気は10年後には10%が限界
震災が起きる前、新増設がなければ、青のカーブで日本の原子力発電所の設備容量は減っていくはずだった。しかし、今回震災がおきたので、いま赤のラインに落ちてしまっている。
現在原発が全部動いたとしても2300万キロワット。実際にはいま17基しか動いていない。原子力発電所が30%の電気をまかなっているというが、それは震災前の2010年断面の数字であって、もはや30%の電気をまかなうことはできない。いま現在20%を切っている。10年後の2020年には1700万キロワットで、10%に落ちる。もちろん、新たに増設されれば減り方が鈍くなるかもしれないが、10年単位で原発ができることはないので、これがきわめて冷酷な現実。原発を増やしたいという人がどんなに頑張っても、10年後には10%になる。もしくは国民の選択があれば0にもできる。その0から10%が、当面日本で考える原子力発電の幅。
●化石燃料は価格がどんどん上がっている
石油や石炭というのは、震災前から価格ががんがん上がっている。2008年3兆円、GDPの4.6%を化石燃料の輸入額で使っている。国民が汗水たらして稼いだ貴重なGDPをキャッシュで海外に払っている。その結果、当然のことながら貿易収支は急落。2008年は2兆円まで減少。あわや赤字転落というところだった。去年は若干改善しているが、今年はまた原油価格が上がっている。原油価格が上がると貿易収支が下がる。
貿易収支が赤字になると、国債が暴落する。経産省のように化石燃料にこれ以上頼るようなことを考えていると、日本経済を破滅に導く。化石燃料にはそれに加えて温暖化のリスクもある。原子力だけでなく、化石燃料も減らすことを真剣に考えないといけない。
●原子力は世界的には衰退期
原子力は世界的には衰退期に入っている。「原発ルネッサンス」などという言葉があっても、実際には低迷し、累積の原発はどんどん減っている。
それに対して、太陽光、風力発電、このグラフは単年度の数字で、風力、太陽光は「増え方」が増えている。2009年の数字で、風力発電は1年で3800万キロワット。設備容量にして原発38基分。2010年は横ばいだったが、それでも累積で1億9300万キロワット。
太陽光発電は2009年が1000万キロワット。原発設備容量で10基分。2010年が1600万キロワット。設備容量で原発16基分。「増え方」が増える。これが少量分散型テクノロジーの特徴。
世界のクリーン御三家は、風力、太陽光、バイオマス。2010年、風力が1億9300万キロワット。バイオマスは図にないが、1億4000万キロワット。太陽光などと合わせて合計で約3億8000万キロワット。原子力の累積は昨今減ってきているので、設備容量は3億7000万キロワット。自然エネルギーが原子力をついに逆転した。今後、差は拡大する一方だ。
●強い政治的意志と賢い政策が必要
自然エネルギーというのは政策の力で増える。基本的に強い政治的意志と、賢い政策の2つが整ったところで、どんどん増えている。最初にドイツ、そしてスペイン、インド、アメリカ、最近では中国。ごく最近ではカナダのオンタリオ州。
日本の自然エネルギーはずっと地をはっている。政治的意志、賢い政策、どちらもなかった。ようやく菅首相が20年代に20%と若干緩い言い方だが、はじめて大きな数字を言った。
太陽光発電のグラフは赤が日本で、緑がドイツ。はるか昔は日本が世界最大だったのに、ドイツに逆転され、一時期日本の太陽熱は縮小した。ドイツは大きく増えて去年1年間で740万キロワット。原発約7基分(設備容量にして)。
日本はようやく一昨年くらいから増え始めた。これは家庭用の太陽光の余剰を買うという政策を始めたため。だめだめだった日本も政策1本で増え始めた。いかに政策が効果的かという証拠。
●「自然エネルギー」が増えるメリット
ドイツのこれまでの20年間のデータ。風力は90年頃からはじまり、特に2000年あたりから増え方が加速している。バイオマスも同様。太陽光は特に最近伸び始めている。2000年の時点でドイツの自然エネルギーの割合は電力の6%だった。それを2010年に倍の12%にしようとめざしていたら、ふたをあけると約3倍の17%に増えていた。
自然エネルギーが増えることにより、電力の自給率が向上する。日本はいま23兆円化石燃料を輸入しているが、自然エネルギーの電力を増やすだけで3000億円の節約になる。
二酸化炭素もドイツは22%も減らした。その半分は自然エネルギーの効果。
産業経済効果は5兆円、雇用37万人。この雇用数は原子力と化石燃料をあわせた7万人の5倍以上。
地域も活性化。ドイツの自然エネルギーはだいたい地域の人たちがオーナーシップを持っているので、自然エネルギーから生まれた便益が地域の毛細血管に戻ってくる。
トリオドス銀行という自然エネルギーだけに投融資する銀行もある。
●世界の目標と日本の目標
菅首相が20年代に自然エネルギー20%といったが、ドイツは10年で17%から40%まで、20ポイント以上増やすのが目標。
スコットランドは約30%をこれから10年で100%にする。
10年で10ポイントぐらい増やそうというのがスペイン、イタリア、フランス。
日本の目標は、「20年代に20%」ということなので、29年もあり。なので、20年の時点ではもう少し少なくてもいいんだという、いかにも霞ヶ関の官僚的な骨抜きが行われている。
●自然エネルギーは第4の革命
自然エネルギーは特にヨーロッパを中心に「第4の革命」といわれている。人類史における第4の革命。農業、産業、IT革命に続く第4の革命が起きている。
物理的にも増えているが、マネタリーベースでみると、自然エネルギーへの投資額は、10年前に1兆円少々だったのが2010年には22兆円と、20倍以上に増えた。
このうちドイツが5兆円、中国が5兆円、アメリカが3兆円。日本はわずかに3000億円しかない。かつて日米欧といわれたが、完全に沈没している。
年率30%、9年で一桁アップしているので、10年後には200兆円を超えることも予想される。20年後には500〜1000兆円になるかもしれない。世界のGDPの1割を占める新しい産業グリーンエコノミーがいま登場しようとしている。
グラフの右は、2009年でみたトヨタ、ホンダなど日本を代表する製造業と日本のエネルギー企業の株式時価総額ランキングに、世界の自然エネルギー企業の時価総額をいれた図。
自然エネルギー企業で1兆円を超える企業は4社、1000億円以上が8社。ほとんどが10年ぐらい前にできた新しい企業。新しいグリーンベンチャーが、一気に一兆円企業とか、数千億円企業になっている。
しかし、このリストに日本企業はなんと一社もない。
日本のこれまでの歴史をふりかえると、太平洋戦争のあとにあの焼跡からホンダとか、ソニー、シャープなど、いまやグローバル企業になっている企業が次々に巣立っていった。いまはあの時期にも匹敵する。
あるいはもう50年さかのぼって1908年。T型フォード第一号が世に送り出されて20世紀は自動車の世紀になった。その黎明期に近い状況のなかで、日本企業の存在感がなきに等しい。
●落ちていく日本のシェア
それを象徴するのが、日本が唯一世界で活躍していた太陽光。5年前には世界の半分のシェアを占めていたが、どんどんシェアが落ちている。
私は「太陽光相対性理論」と言っているが、日本の太陽光発電企業も一生懸命設備投資するのだが、世界のマーケットの拡大があまりにも早いので相対的にシェアがどんどん落ちている。これはかつてみた半導体、液晶と同じ。「太陽光、お前もか」という状況。太陽光がグローバルマーケットになる前から、日本は予選の段階で落ちてしまっている。
●原子力発電が安いというのは大ウソ
原子力発電所が安いというのは、まっ赤なウソ。これは私自身が調べた電力会社が設置許可申請書に記載した原子力発電所の発電原価。
経産省が「原子力の発電原価は5円から6円(/KW時)」というのは、完全にでっちあげの数字で、情報公開を請求すると、黒塗りの紙が出てくる。
電力会社が自ら計算したのが平均15円ぐらい。原子力は安くもなんともない。それに事故の補償や、あと10万年は続く核のゴミの処理を考えると、原子力はけっして安くない。
●まるで蜃気楼のようなプロジェクト
しかもいまヨーロッパ、あるいはアメリカで起きているのは、もっと悲惨。フィンランドでは2002年に国会で6票差で原発をつくることになって、2005年から建設をはじめた。当時3500億円でつくりはじめたが、どんどん追加費用がかさみ、いまや、1兆5千億円になってしまった。途中でドイツのジーメンスが逃げて、フランスのアリバだけになった。アリバはお金が足りなくなって、虎の子の送電部門を売り払い、1兆円のキャッシュを手にして、なんとか食いつないでいる。
さらに、2010年に完成予定で、遅れるとペナルティを払わなきゃいけない契約なのに、去年になってあと4年かかると言い出した。今年になってまたあと4年かかると言っている。いつできるかわからない、蜃気楼か逃げ水みたいなプロジェクト(同じようなプロジェクトが日本の六ヶ所村にもあるが)。非常に無惨なことになっている。
アメリカでもサウステキサスという電力会社が当初2基を約5000億円でつくろうとしたところ、最近になって2基で約1兆8000億円かかるという試算に。アメリカの投資が全部逃げたところに、日本の東電、東芝が貿易保険をつけて出資しようとしていた。全部すったら、財政投融資で結局国民が負担することになるところだったが、311が起きてこのプロジェクトは飛んだので、日本の国民は損をしなくて済んだ。
●世界の金融機関は原発を敬遠
311が起きて、あの無惨な状況で、三井住友を中心とする銀行団は東電に約2兆円を低利融資で無担保で貸し付けたが、世界の金融機関は、原子力はこわくて貸せないというのが常識。シティバンクは原子力には基本的に投資しない。ムーディーズは、原子力関係に投資したら、即座に債券価格は低落するからと、格付けを落とす。日本の金融機関だけは真逆の常識をもっている。
●普及によってコストは下がる
再生可能エネルギー、自然エネルギーは、いま高くても、普及によって性能が上がってコストが下がる。パーソナルコンピュータも、液晶テレビも、携帯電話も、普及すればするほど性能が上がってコストが下がった。7、8年前に液晶テレビは32インチが30万円前後で、当時はインチ1万円といっていた。ところが、つい最近、ついに液晶テレビはインチ1000円を割った。当時は10万台しかつくっていなかったが、いまや100万台つくっているから。
大量生産型のハイテク製品というのは、普及によって性能があがってコストが下がる。パーソナルコンピュータは、だいたい2年でCPUが倍速になる。いまのパーソナルコンピュータは、10年前のスーパーコンピューター。太陽光発電も風力も、コストはうなりを上げて下がる。原子力発電と化石燃料は、逆にうなりをあげてコストが上がっていく。
象徴的なのはアメリカで、原子力の新設コストがどんどん上がっている。太陽光はだいたい年率10%ぐらい下がっている。
投資減税効果もあるので、絶対価格ではないが、アメリカの州のなかには、原発のコストよりも、太陽光のコストのほうが安いところも出てきている。
●正味のコストとして増えるのはわずか
自然エネルギーの電気のシェアを増やしていくと、一時期電気料金が最大1割ぐらい上がる可能性があるが、そのあとぐんぐん下がる。自然エネルギーのシェアが増えると燃料コストが下がるので、正味のコストとして当面増えるのは0.5円(/KW時)ぐらい。あるポイントからは、燃料費の減少に、電気料金への上乗せ分の減額が加わって、安くなるはず。このグラフは、コストシミュレーションの一つ。ドイツでもスウェーデンでも、真っ当な経済学者がシミュレーションすると、だいたい同じようなカーブになる。
●文明を持続するためには、自然エネルギーしかない
30年、50年先のこどもや孫の世代を考えれば、どちらを選択するかというのははっきりしている。大前提として自然エネルギーというのは、唯一の持続可能なエネルギー。自然エネルギーか原子力か化石燃料というのは、なしとみかんとりんごのどれを選びますかという話ではない。いまの我々の人類文明を、数百年、数千年、数万年単位で仮に持続する必要があるとすると、大原則として再生可能なエネルギーと資源を再生可能な範囲で使う社会に遅かれ早かれ到達しないことには、必ずクラッシュする。
それは可能なのか。
ドイツの大統領諮問委員会が技術的に評価したら太陽エネルギーだけでも、世界のエネルギー消費の約3000倍のエネルギーがあった。それを0.01%お湯か蒸気、もしくは輸送に使える燃料に変えてやれば、いまの文明を営む電気エネルギーを得ることはそんなに難しくない。つまり自然エネルギー100%に転換するというのは、できるかできないかではなくて、いつまでにどのようにするか、そういう問題設定である。
●各国の「自然エネルギー100%シナリオ」
去年になってヨーロッパでは、いろんな研究機関、政府機関、団体から「自然エネルギー100%シナリオ」というのが同時多発的に出ている。いまや自然エネルギー100%にしていくというのが、大きなメインストリーム。
●日本の自然エネルギーの潜在能力
この春日本でも環境省が太陽光、風力発電のポテンシャルを発表した。それによると、太陽光だけで、日本が持っている電気の全設備容量に近い量を確保できる(太陽光の場合、実際の発電量はもっと少なくなるが)。現実の地理データをつかって、屋根も全部拾ってやったところ、十分な土地はあるという結果。
風力発電はもっとすごい。最大のシナリオだと陸上だけで3億キロワット。いま日本の全設備容量が2億キロワットなので、その1.5倍をつくることができる。海底に固定する着床式でさらに3億キロワット。浮かべる浮体式が13億キロワットで、合計19億キロワット。いまの電力の設備容量の10倍ぐらいフル活用すればつくることができる。ここまでつくる必要はないが、それだけ膨大な量があるということ。
●我慢しない節電を
電力を減らすことも大事。エネルギーを減らすというと「暗く寒く我慢する」、夏なら「暗く暑く我慢する」と、つい思い込んでしまうが、エネルギーを減らすということと、貧しくなる、あるいは暗く我慢するということは、直結しない。
大事なことは2つ。「エネルギーサービス」という考え方を理解するということと、電気のこぎりでバターを切らないということ。
エネルギーサービスというのは何かというと、我々は電気を使うことを目的として電気を使っているわけではない。電気を使って何かの利便性を得るために電気を使っている。その利便性をエネルギーサービスという。
●エネルギーのロスを減らせばすごい節電効果に
たとえば裸電球というのは、明るさというエネルギーサービスを得るために裸電球と電気を使う。そのためにどのぐらいエネルギーを使うかというと、100のインプットエネルギーが発電のところでそもそも60%失われて、送電で8%失われ、電気を使うところでさらに失われて、結局、100のエネルギーのうちの4しか明るさになっていない。これをコンパクト蛍光灯に変えるだけでも、最後のロスが一気に減ることになるので、4分の3投入エネルギーを節約できる。サービスに着目すると、節約というのは%ではなく、何倍というオーダーで節約できるのだ。これがLEDだとさらにもう半分まで節約できる。映像や洗濯など、いろんなエネルギーサービスを最高効率の機種に変えていくと、ものすごく節電効果がある。
もうひとつ、「電気のこぎりでバターを切らない」というのは、電気というのは作るところで60捨てている。電気で暖房と給湯をするというのは、本来、この捨てたお湯でできたはずの仕事を電気をつかってやっているということ。これは非常にもったいない。これを「電気のこぎりでバターを切る」と言っている。
つまり電気ヒーター、電気温水器、ホットカーペットなどは、熱効率的に非常にもったいなくて、無駄な使い方。
●外がマイナス40度でも暖房がいらない住宅
これはスウェーデンにある無暖房住宅。暖房がいっさいない。政府の実験住宅でもなんでもなくて、ふつうの民間の賃貸住宅、もしくは販売住宅。外の気温がマイナス何十度になっても、家の中は20度ぐらいに保てる。
壁の厚さが42センチあって、窓は3層ガラスと木製サッシ。ガラスとガラスの間には不活性ガスが入っている。表面はローイーガラスになっている。中の空気は熱交換をしながら換気をするようになっている。
インプットエネルギーはなにかというと、太陽エネルギーと、電気製品の出す熱、人間の出す熱(人間はひとり100Wの熱を出している)。この3つのエネルギーを大切にすることによって、外がマイナス40度でも中を20度に保つ無暖房住宅ができる。
●暖房と給湯には電気を使わない
東京でも電力の約半分は暖房と給湯で使っている。暖房と給湯は、発電のときに捨てているレベルの熱。つまり暖房は40度の湯でできるし、給湯は60度の湯でできる。それを電気を使わずに極力、まずは減らすこと。
できれば無暖房住宅がいいが、家を簡単に建て替えるわけにはいかないので、できるだけ暖房と給湯を減らす。太陽熱温水器とかペレットボイラーなど自然エネルギーの熱利用にすれば、さらに大幅に減らすことができる。
●2050年には自然エネルギー100%も可能
ドイツと同じ増やし方をすれば、2020年には自然エネルギーをいまの10%から30%にできる。20%アップで頑張ればなんとかなる。原子力は0から10%の範囲で。さらに寒く暗く我慢しない省エネで20%ぐらいカット。あとは石炭・石油と天然ガス。できれば天然ガスを多めにして、石炭・石油は極力減らしていく。
そういうふうにエネルギー変化の大きい10年にして、そのペースを続けていけば、あと30年もあれば、化石燃料も全部追い出せる。
●まずは東北を自然エネルギーの拠点に
その出発点になるのはやはり東北。東北は自然エネルギーが豊富なので、復興の軸は自然エネルギーにするべきだろう。
孫さんが地域から変革していこうと、自然エネルギー協議会を立ち上げた。最大のポイントは、ボトムアップでやることだ。
●風力発電を普及させるポイント
デンマークの風力発電を赤い点に落とすと、デンマークの地図が浮かび上がるほど。デンマークには、一人当たりもしくは単位面積あたり日本の50から100倍ぐらい風車がある。しかし、日本のように風力発電反対という意見はない。
第一のポイントは、風力発電をつくっていい場所とつくっていけない場所をあらかじめ地域社会の合意のもとに線引きしてあること。家のそばとか地域の人が大切にしている景観の前とか、野鳥の営巣地のど真ん中などに、いきなり風車ができたりしない。これで紛争の9割近くは排除できる。
また、地域の人々がその事業の主人公なので、その人たちに利益が戻ってくる。だいたい2000キロワットの風力発電の定格で、一周まわると100円売電収益をあげることになる。
デンマークやドイツにいくと、本当に農家の軒先に風力発電があったりするが、その人たちはうるさいとは思わない。なぜかというと、風力発電1周ごとに、自分の銀行口座に100円入ってくるから。まわればまわるほど、風の音がお金の音に聞こえる。止まっていると心配になって、すぐ修理工場に電話する。
エネルギーと地域のプラスの関係をしっかり築くことが必要。マイナスの関係を築くと、風力発電の数が増えたときに完全に行き詰ってしまう。
いまから15年前、携帯電話とインターネットがちょうど世界的にはやり始めたとき、まだインターネットと携帯に関するルールはなかった。いまみたいに日本人がほとんど使うようになると、マナーモードとかプライバシーとか著作権とか、ルールがないと使えなくなる。でも、そういう問題があるからといって、携帯電話反対運動を起こしても仕方がない。マイナス面はルールで補いながら、やはりプラス面を生かしていく。
自然エネルギーもそういう新しいルールを作っていくことが必要だと思う。
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