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最高裁は逃げた!? いわき病院事件、上告棄却


平成28年8月29日
矢野千恵


一縷の望みをつないでいた最高裁は、上告理由に該当しないとの理由で棄却されてしまいました。このような場合に救済措置はないものでしょうか。

しばらく呆然としておりましたが、結果は結果としてお知らせせねばと思い、ようやくパソコンに向かっております。

事件真相解明はできました。事件は、犯人の野津純一が放火暴行歴のある統合失調症患者だったのに、渡邊医師が「不勉強で、無知で、患者診察拒否したこと」にあります。不勉強で無知とは、パキシル添付文書違反、統合失調症治療ガイドライン違反をして向精神薬2剤を突然中断したことを意味します。

もうひとつの「矢野がやりきらねばならないこと」は、この事件を礎として、日本の精神科医療のあまりのお粗末さを改善することです。

日本の精神科医療に自浄能力が無く、「不勉強で患者を診ない精神科医師をのさばらせ」、司法も同時に「このようにして健全な若者の命が理不尽に奪われる事態に無力だということ、知らん顔をしていること、かかわりあいたくないとさえ思っている節があること」です。
  ブリストール大学、トロント大学、西オーストラリア大学精神科医師達で構成されるデイビースらの力を借りて、外圧をかけて、日本の精神科医療の貧しさ、後進性を指摘してもらい、日本の精神司法を含めた改善につなげる所存です。

「高裁差し戻し」がなかったということは、「精神障害者の犯罪は日本ではタブー」だからだと思います。最高裁は退けたというより、逃げたのではないでしょうか。

高裁裁判長が判決後「和解打診」をしてきたことは、「高裁判決は不誠実」を自ら認めている証拠です。

以前、犯罪被害者学の権威で、日本の第一人者と自他共に認める、某大学の某教授に、協力をお願いしたところ、「矢野さんに協力したら私が批判されます」と言って断られました。まともに議論してはいけない領域のようです。

日本は外圧によってしか、この精神科患者犯罪のタブーを突破できないと思います。

夫、矢野啓司は2月9日、3月14日、8月4日と、3回の脳内出血を起こし、入院加療中です。野津純一が置かれていた状況とは全く違って、医師もスタッフも大変親切丁寧であることに新鮮な気持ちと、ありがたい気持ちでいっぱいです。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

◆追記

啓司の農水省時代からの友人で、この裁判にずっと関心を持ち続け、アドバイスし続けてくださった、春日井 治さんから最高裁棄却に対するコメントをいただきました。私も全く同じように感じます。

書き忘れていましたが、「遺族は(統合失調症で医療刑務所で受刑中の)犯人野津純一にも賠償金を求め、1億2千万円の支払い命令がすでに確定している」という新聞報道には違和感があります。

私たちは、二つの家族が同時に息子を失ったと考えています。
  平成18年に民事提訴したとき、担当弁護士さんから、直接の犯人を被告に入れないと裁判が成り立たないと言われて、仕方なく被告に加えただけです。高松地裁が「絵に描いた餅を気の毒な遺族に提供」しました。純一に賠償金請求しないことは最初の提訴時から野津両親に伝えてあり、その後純一を被告に加えなくてもよいことが判明して、高裁では野津夫妻と共闘を組みました。

「純一は気に入らないと自宅の物を壊す、親に対してひどく暴れたことがある:母親インテークシート作成時いわき病院に申告」
  可愛いわが子とはいえ、図体のバカデカい荒れる息子と、同じ屋根の下で暮らす両親の心労はいかばかりだったかと思います。へとへとになり病院にお預けすることにしたはずです。

文明国も非文明国も、人口の1%が統合失調症です。他人事ではありません。また、「EBMを無視し、あたりまえの治療が行われない状況でも、外出させることが精神障害者の人権を守ること」と信じている精神医療界、司法界は狂っています。

精神障害者自身、その家族もそんなことは望んでいません。それより、ちゃんと診てもらいたいし、普通の治療を受けたいのです。そして、「具合が悪そうだから、今日は外に行かないでいようね」と言って何の問題があるでしょうか?日本の裁判官には常識が通用しないのだとつくづく思います。

地裁、高裁、最高裁、いずれも精神障害者による市民殺傷発生件数を減らす気は全くなく、殺傷された市民はただの不運な人(自分たちは殺傷の対象となることは決してない)としてしか認識しないようです。自ら死を選んだ自殺でさえ検証される時代に、置いてきぼりです。



◆春日井 治 様からのコメント


矢野 千恵 様

お知らせありがとうございました。どんな判断になるかいつも気になっていたところです。

添付いただいた最高裁の棄却判断を見ましたが、あまりにもひどいものだと思っています。矢野さんは、民事訴訟法312条第2項に従い、高裁の判決に不備、食い違いがあったから、申立を行ったわけですが、「実質は事実誤認、単なる法令違反だから、上告の事由に該当しない」とあります。

いわき病院・渡邊医師が行っていた、統合失調症治療法ガイドライン違反や薬剤の添付文書違反、投薬の突然の中止以後の経過観察の無さ、事件当日の患者の診察要請さえ応えようとしなかった「ほったらかしの治療」、不正確で不十分な診療記録などは、いずれも病院の無責任な行為を裏付けるものだと思いますが、上告に値しないということは、病院の責任がないことを意味するのでしょうか。「事実誤認、単なる法令違反だから上告事由に該当しない」とは、どういう意味なのか、理解に苦しみます。

裁判官の皆さんは、「不完全な、“治療”」の名に値しないような治療でも構わない」とお考えなのでしょうか。あるいは、「いわき病院・渡邊医師は、立派に(少なくとも普通に)治療をしてきた」とお考えなのでしょうか。病院(特に精神科病院)を相手にした裁判は、裁判官自身が、相当の勉強をしなければならないので、多くの案件を抱えた忙しい裁判官がきちんと双方の書類を読みこんで判断したのかも気になるところです。

暴力履歴のある統合失調症の患者に誤った薬剤の使用(やってはならないとされている薬剤の突然の中止)をし、経過観察しないこと、苦しんでいる患者の診察要請を断るような行為まで、「構わない・何の責任もない」とすれば、矢野真木人さんのような悲劇は、今後も繰り返されることを意味します。

上告申立を受理しないことに救済措置があるかどうかは、弁護士先生に相談していただきたいところですが、私としては、矢野ご夫妻がこの裁判を通じて「英国などに比べてお粗末な日本の精神科医療を改善したい」、「一般市民と患者とが手を取り合うことで、患者の権利に配慮し、市民も安心して生活ができる開放医療を進めたい」、「二度と真木人さんのような悲劇を生みださない」という強い動機に賛同して、見守ってきましたので、この判決には、危機感を覚えています。

地裁、高裁を通じての長きにわたる裁判闘争は、無駄だったわけで全くなく、精神科病院に対して、まともな治療を受けたいという患者とその家族の願い、市民の安全を考えた精神科の開放医療の在り方に目を向けさせたと考えています。矢野千恵さん、啓司さん、長いこと、ありがとうございました。

裁判闘争はこれで終わりかもしれませんが、千恵さんが書かれているように、国内の関係者、海外の精神科医の方々とも連絡を取られて、この方向に少しでも前に進めていただけたらありがたいと思っています。何かできることがありましたら、お知らせください。

終わりに、友人の啓司さんの治療・回復が順調に進むことを祈っています。

春日井 治


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