いわき病院を被告とする民事訴訟趣意書
私どもは医療法人以和貴会理事長渡邊朋之(以下、被告病院)及び野津純一(以下、被告純一)を相手取って平成18年6月22日に民事訴訟を提訴し、本日で第2回公判を終えました。
私どもが考える本件訴訟の位置づけと社会的意義を以下の通り述べます。
1、 民事訴訟に至るまでの経緯
私どもの長男(矢野真木人享年28才)は平成17年12月6日に被告純一に通り魔殺人され、刑事裁判の判決は平成18年6月22日に高松地方裁判所で言い渡されました。判決では、被告純一は慢性鑑定不能型統合失調症と反社会性人格障害の症状を有し、四半世紀に及ぶ極めて寛解が難しい重篤な統合失調症であるが、犯行時には事理弁識能力や行為制御能力を有していたとして、本来なら無期懲役のところ心神耗弱が適当とされて懲役25年の刑罰が確定しました。
被告純一はいわき病院に入院中の精神障害者でした。被告病院長渡邊朋之は事件直後平成17年12月8日の記者会見で「患者さんに社会復帰の訓練というか、実地訓練をしてもらうための、(外出は)コンビニとか行くくらいの時間内で許可をしていたものですが、40回以上の外出の時もいずれもこういう対人的なトラブルは一切なかった人なので、予測がほんとついてなかった」(テレビ朝日12月8日報道ステーション、聞き取り)と言しました。この時点において、被告病院は明確に「社会復帰の実地訓練」という認識を記者会見という公式の場で明確に発言しました。
被告病院は「開放医療に対する基本的姿勢は現在のわが国における精神科医療に関する国の基本施策に合致するものであり、これはまた、国際社会の趨勢であるノーマライゼーションとも整合する」と主張しました。その上で本件殺人事件に関しては被告病院の責任を一切認めようとしません。国の政策に基づいた社会復帰の実地訓練であるならば、責任の所在を明確にする必要があります。被告病院が主張する通り、責任が無いとされれば社会的影響は極めて大きいのです。
2、 矢野真木人の死が残した課題
私どもは、命を失った矢野真木人が私たちに残した課題は、以下の通りであると考えています。
第一に、被告純一は重い統合失調症の精神障害者であるとしても、殺人に至る論理的思考能力を有していたので、相応の刑罰に処せられなければなりません。従前のように「慢性で重い統合失調症=心神喪失」という単純な図式で、刑罰の軽減や刑罰を課さないようなことがあってはなりません。刑法第39条が制定された100年前には治療不可能であった精神障害も、現在では寛解とまでは至らなくても正常に近い精神生活をほとんどの障害者に確保できる程度に精神医学は進歩しました。私どもは被告純一が日本の国民として甘受すべき刑罰とその執行を見極める所存です。
第二に、被告純一は被告病院長に許可を得て外出していた入院患者で、被告病院は「社会復帰の実地訓練」という病院の治療プログラムを実施していたので被告病院には管理責任があります。被告病院長は「『国の政策』や『国際社会の趨勢であるノーマライゼーション』とも整合する」と言っておりますが、それは被告病院の責任を免責にする理由にはなりません。国家的な大義名分があれば人命が失われても責任を回避できるとする社会通念は存在せず、社会正義に反します。このような被告病院の言い訳が許されると同様な殺人事件の発生が野放しとなります。また、刑法第39条は精神障害者に対する刑事罰の免責規定であり、治療する医療機関の責任を免責するものではありません。被告病院には法の下に責任があります。私どもは、被告病院の責任を通して精神科病院が社会に対して負うべき責任を明確にするために民事訴訟を提訴しました。この裁判を通して、精神科病院が社会に対して持つべき行動規範を明らかにしたいと希望します。
第三に、今後の活動ですが、精神障害者を含む障害者の社会復帰は促進される必要があります。ノーマライゼーションの理念が日本で定着して広く普及することは、国連で世界に向かって約束した国家政策です。それには広く社会の賛同と理解を得る必要があります。それは精神障害者を含む障害者の権利が保障され、権利を行使できる社会を創り上げることです。また、権利には義務が伴うからこそ、広い国民的な支持が得られるのです。私どもは障害者が、普通の人間として、価値ある人生を生きることができる社会を確立することを目指して、今後は社会活動をします。私どもは真に国際社会の信頼を獲得し、世界に誇れる人権国家日本を創り上げるために貢献します。
第四に、犯罪被害者の救済活動に参加します。犯罪被害者の立場は、ある日突然、何の予告もなく発生し、本人あるいは愛すべき肉親の回復不能な身体機能の損失もしくは死という形で現れます。被害者となったその時から、生活の基盤や幸福のよりどころにしていたものが、突然失われます。どんなに努力しても、それを回復することは永遠に不可能です。犯罪被害者は自らの死を迎える日まで、亡失感や喪失感に耐えていかなければなりません。誰もが犯罪に見舞われた直後の緊急医療や葬儀などで翻弄されます。その間にも警察や検察などで加害者への取り調べなどの手続きが行われます。被害者は気が動転して、泣き崩れながら、葬儀など事後処置で時間を割かれている間に、重要な意志決定や手続きの執行が関連各機関で行われます。その中には犯罪被害者の立場からすれば、甘受しがたいが転覆不可能となってしまう決定もあります。また被害者の立場の苦しさは、時間がたてば軽減するものではありません。経済的にも、社会的にも苦しい状況が、次々と発生します。犯罪被害者は必ず発生します。私どもはいつ発生するかわからない新しい被害者に、犯罪被害の経験者として、犯罪被害の初期の段階から手を差し伸べる方途を模索してまいりたいと考えます。
第五として、究極の課題ですが、刑法第39条は、時代の現実にそぐわないので撤廃すべきと考えます。刑法の規定が制定された明治40年代の当時と現代では前提となる医療水準がまるで異なります。当時は重い精神障害者は治癒を期待できませんでした。しかし、今日では治癒が可能となりつつあり、将来は脳科学(Brain Science)の進歩で、正常な人間として社会生活を楽しむことも可能となるでしょう。このような状況の変化があっても、刑法第39条が存続し続けることは、ひとたび精神障害の患者とされた者の人権を阻害し続けることになります。安易に責任免除が適応されることは、社会人として自立したり、個人として契約を結ぶことを法制面から阻害します。医学がどのように進歩しても「心神喪失の状態が絶対にあり得ないか」と問われればあり得ます。しかしこれまで「心神耗弱」や「心神喪失」が安易に精神障害と結びつけられていた社会的また司法的慣例を元にすれば、刑法第39条は廃止されなければなりません。その上で突発的に生じるもしくは回復することのない心神喪失状態の救済は、刑罰規定ではなくて人権の問題として、新たな法制度の下で救済する方途を作り上げるべきです。そのために、私どもは法制度の改正を求める活動を開始します。
3、 民事訴訟提訴の趣旨
私どもの被告いわき病院に対する裁判の目的は、日本で精神障害者のノーマライゼーションの理念が広く国民に受け入れられ、精神障害者も普通の社会生活を送れるようにするための条件を明確にすることです。精神障害者も基本的人権が実態として認められ、それを妨げられることが無く、また行使することができる社会を創りあげることは当然です。このことが国民に広く理解され、かつ支持される必要があります。被告病院が精神科医療機関として履行すべき活動の中で、被告病院が行った数々の不正義や怠慢及び不作為を指摘して確認することが本件裁判の課題であると思量します。本件裁判は日本における精神科医療の改善に資することを目的とします。
4、 対いわき病院訴訟の社会的な役割
私どもが本件民事裁判を提訴する理由は、被告いわき病院の廃業ではありません。むしろ被告病院及び被告病院に類する、精神障害者の社会復帰及びノーマライゼーションの理念の普及を促進しようとする日本国内の医療機関の役割増進です。私どもの究極の目的は、精神障害者の社会復帰を促進する医療機関の普及を促し、その医療活動をより良くして、世間一般の支持を獲得することに貢献するところにあります。
私どもは矢野真木人が生きて日本人としての平均の寿命を全うしておれば、矢野真木人個人として4億3000万円の請求金額よりはるかに多い蓄積を残すと考えます。その上で請求金額を大幅に減額して被告病院に請求しました。それでも日本における個人の生命損失に対する損害賠償請求金額としては大きな数字です。私どもは交通事故の一般的な損害賠償請求金額を聞きましたが、故人の生前の職業などに関わりなくほぼ1億円程度で一定だそうです。しかし本件は多くの交通事故のように、予期できずに生じた過失が事故原因である場合とは異なります。本件裁判の請求金額が交通事故の例に倣い「1億円+α」の数字の範囲内とならない最大の理由は、いわき病院が悪質であり、いわき病院に逃げ道を許してはならないからです。被告病院が議論もせずに賠償請求金額を支払い、臭いものに蓋をして逃げ切れることができる道を許してはならないのです。
私どもは、被告純一に対する刑事裁判の期間を通して被告病院及びいわき病院長の発言や態度に注目しました。被告病院は自らは精神障害者の人権を守る善良な病院であるという立場に固執しています。その上で被告病院の責任を追及することを、障害者に対する「偏見と差別と蔑視」などという独善的な視点で封じ込めています。また被告病院の管理ミスにより発生した殺人事件に対しては、殺人は最大の人権侵害であるにもかかわらず無責任な態度です。被告病院のこのような姿勢を放置すれば、社会復帰訓練で行われる外出中の事故に社会的なけじめがつきません。また日本で理不尽な殺人事件の削減や抑制を期待することもできなくなり、社会的不正義です。
被告病院長は被告純一に対する刑事裁判が始まる前から被告病院職員に「弁護士と保険会社が始末する、問題は解決した」という発言をしておりました。私どもに対しては責任を認めない一方で、職員には「金銭で解決するので問題が終わった」と発言する被告病院の態度は背徳です。このため、被告病院には「金銭を支払えば議論をしないで問題を隠すことができる」という選択の道を絶つことにしました。被告病院の事件後の態度は無責任と悪質で、詭弁に満ちていました。
被告病院の社会的責任を明確にさせるにはそれだけの経費負担が必要です。被告病院が簡単には支払えない金額であって、その上で被告病院の経済基盤を破綻させない程度の範囲を想定しました。「被告病院が損害賠償金を支払わないようにするため、必死に自己弁護の議論を展開して頑張るであろう」金額を考えました。本件殺人事件の本質を解明して、精神病院のあり方について被告病院と正々堂々と公正な議論を行い、その可否を公開の裁判の場で確定するために、被告病院にはきちんと説明責任を果たしてもらいます。その上で、被告病院に反省を促し、精神医療活動に改善を期待するところに目的があります。私どもは、本件訴訟を通して日本で精神障害者のノーマライゼーションの理念が確立され、精神障害者の社会復帰が促進されることを期待します。
5、 いわき病院の答弁書のおかしな所
平成18年7月31日付で被告病院が提出した答弁書は、内容が不誠実であり、矛盾に満ちたものです。
1) 「不知」を乱用している
被告病院は、矢野真木人が私どもの長男であることや、被告純一の過去における他の医院や病院への通院歴を「不知」としています。これは、被告病院長、他の幹部が矢野真木人の葬儀に参列した事実と矛盾します。また過去の通院歴を総て「不知」としながら、その一方で被告純一の反社会性人格障害に関連して「発病後多くの医師が被告純一を診察しており、いずれの時期においても、いずれの医師も、強迫神経症や統合失調症という病名を付けており、反社会的人格障害という診断を下した医師、医療機関はなかった」と証言しました。過去の通院歴を「不知」としておいて、どうしてそれを根拠とした主張ができるのか、理解に苦しむほど矛盾しており不誠実です。
2) 被告病院の責任意識と外出訓練
被告病院は犯行当時の被告純一の外出について「外出訓練中は否認する。単に『外出中』が正しい。訓練中ではない」と証言しました。しかしその一方で、「単独外出を中止すべき程の状態ではなく、単独外出許可の判断に誤りはない」と被告純一に対して被告病院の外出許可があったことを認めています。また被告純一に刑事裁判で実刑判決がおりたことについて「被告病院での作業療法や社会生活訓練・面接、などの治療効果を有していたことの証左なのである」と答弁の中で社会生活訓練などの成果を誇っております。つまり被告病院長には自ら「訓練」をしているとの認識があり「訓練を通した治療を行っていた」と証言したのです。被告病院長は平成17年12月8日朝の記者会見で「遺族に謝罪」と発言して、病院の責任を認めた上で、亡矢野真木人の葬儀にも参列しました。これは被告病院に責任があることを自ら認めていたのです。その上で、答弁書で「単に『外出中』が正しい」と否定したことは、虚偽であり著しい不正義です。
被告病院は、社会常識に即した一貫する誠実な姿勢をとっておりません。被告病院の発言は自己保身で内容が無く、空虚で矛盾に満ちた弁明であり、自ら信用を失墜させています。被告病院の証言が一貫せずまた一致しない無責任な態度であることは、精神障害者の人権を促進すべく社会に尊敬ある地位を占める、人間の精神を治療する医療機関としては誠に残念なことです。被告病院が「人権の守護者」の大義名分を振りかざす態度は実に見苦しい姿勢です。嘘と欺瞞に満ちた答弁を繰り返しつつ、人権の擁護者を標榜することは最も人権を侵害する行為です。
3) 被告野津が発していた数々の"兆候"
被告病院は被告純一が発していた異常な兆候を、外出制限に関連した証言で「朝食を摂食しないことだけ」と発言しました。しかし被告純一には、主治医である被告病院長が平成17年11月30日と12月3日の2回診察して認識していただけでも、「足のムズムズの訴えとクーラーの音が人の歌声に聞こえるという幻聴」がありました。被告病院は診察の際に被告純一が12月6日の犯行の一週間前頃に顔面の左頬につけていた「根性焼」の瘢痕を見逃しました。この瘢痕があったことは被告純一の両親も認めています。被告純一が被告病院内で発していた事前の"兆候"は以下の通りです。
(ア) 被告病院に入院中に繰り返されたと思われる被告純一の根性焼
(イ) 退院が1ヶ月後に迫っているというストレス(被告純一には退院を勧めると病状が悪化する傾向があった)
(ウ) 病院職員に構ってもらいたいという貧乏揺すりが見られた
(エ) 亡矢野真木人殺人約一週間前の根性焼があったこと
(オ) 院内の喫煙所が汚れていることなどに不満を持っていたこと
(カ) 何者かが自分の喫煙を邪魔しようとしていると考え、そのことに対する憤懣を覚えていたこと
(キ) 何者かが自分の父親の悪口を言っていると思いこんでいたこと
(ク) 12月3日、足のムズムズ感とイライラ感と手洗い強迫を認めていたこと
(ケ) 12月3日、クーラーの音が人の歌声に聞こえた幻聴があったこと
(コ) 12月5日、風邪症状の37.4℃発熱(しんどい、軽度倦怠感、咽の痛み)等があったこと
(サ) 12月5日、6日、7日、食欲不振(食事を摂らなかった)であったこと
(シ) 12月6日まで、喫煙所の汚れがひどくなったように感じていたこと
(ス) 12月6日まで、自室の隣の非常階段のドアの開け閉めの音を煩わしく思っていたこと
(セ) 12月6日まで、病院内の他の患者の話し声を聞いて、自分の父親の悪口の憤懣を一層募らせていたこと
被告病院はこれらの兆候を見逃した上で、「予兆に対しては精神科病院は注目すべき」との私どもの指摘に対して「そもそもその様なことは不可能である」とか「(私どもが)精神障害者が必ず犯罪をおこすであろうことを前提にする」などと、突然論理を飛躍させて、自らの努力不足と過失を擁護しました。被告病院は精神科医療機関ですが、原告が人権に理解を持たないとして、原告の尊厳を理不尽かつ意図的に傷つけており悪質です。
4) 殺人した前日からの37.4℃の風邪気味でも、被告病院は診察してない
被告純一は12月5日から37.4℃の風邪気味の症状で「喉の痛みと頭痛が続いていること」を訴え、12月6日の午前10時頃には看護師を通して主治医である被告病院長に診察を依頼しました。主治医であるのに被告病院長はこの訴えを無視したのです。この時適切に診察しておれば上記3)で指摘した予兆に加えて、風邪気味による「眼の色」、「顔の表情」、「精神上の変化」など被告純一の心身の変化を読み取る事ができました。被告純一が「イライラ感」をより一層募らせている兆候の数々を認識して、医師として外出禁止もしくは付添による外出に切り替える指示を出す義務があったのです。希望したにもかかわらず、診察をしてもらえなかった被告純一は、その直後「先生に会えんのや。もう前から言ってるんやけど、喉の痛みと頭痛が続いているんや。」との絶望的な気持ちになり、被告病院から外出して亡矢野真木人の殺害におよびました。
なお、私どもは最近被告純一がいわき病院に入院する以前のカルテの写しを入手しましたが、10代の後半から器物破損など乱暴な行動が記述されておりました。また27才の時には、殺人などのニュースに接すると自らも恐怖感から「殺される」などの言動を有していた事実が判明しました。被告純一が亡矢野真木人を殺害する数日前には広島および栃木で幼女殺人事件があり、その事件がテレビを通して連日頻繁に放送されていました。被告純一は自らも体調不良であるにも関わらず、望んでも被告病院長の診察を受けられないなど、心に変調と変化をもたらす条件は揃っていました。被告病院長は精神科医であり、このようなことを配慮する責任がありました。
5) 刑事裁判で認定された事実を否定して、判決を曲解している
被告病院は刑事裁判で被告純一に対して、高松地方検察庁が作成し判決でも事実認定された起訴事実の数々を「原告の意図的な創作」とまで言い切りました。また被告病院長の医学的見識として「被告純一の精神鑑定は統合失調症と反社会性人格障害を二重診断しており医学的に間違いである」と証言しました。その上で「被告純一に懲役25年の厳罰が下されたので、被告純一の統合失調症がほぼ治癒したことが証明された」と強弁し、被告病院は「被告純一は正常な人間であるので、その治療効果を上げた被告病院には責任がない」とまで主張しました。判決に至る事実と論理を否定しながら、結論だけを自分に都合良く歪曲して取り入れている被告病院の論理は悪質な詭弁です。
6) 被告純一の反社会性人格障害を診断できなかった
被告純一は平成13年6月21日に被告病院に最初の通院を初めてから平成18年12月6日に殺人事件を起こすまでに、反社会性人格障害者の特徴である「傷害・殺人・窃盗・暴行・婦女暴行・放火・定職に就かない・早期怠学・虚言と自己弁護」などの多くに該当していました。これらの項目の内で少なくとも「放火(火災の原因者)」、「暴行」、「早期怠学」、「定職に就かない」などの項目については被告病院は承知していました。さらに「傷害」と「虚言と自己弁護」についても被告病院長が誠実な診察を行っておれば承知することができた可能性が高いと思われます。その上で、被告病院長は反社会性人格障害を診断しなかった医師としての過失があります。
亡矢野真木人殺害前に顕在化していたこと
傷 害 示談金を支払うほどのことをした
窃 盗 不明
放 火 17才の時、自宅及び両隣三軒の火災の出火原因者
暴 行 被告病院内で繰り返した
婦女暴行 これまでのところ不明
早期怠学 中学2年の時から不登校
定職に就かない 仕事が長続きせず、働く意欲がない
亡矢野真木人殺害後に明らかになったこと
殺 人 少なくとも一人、亡矢野真木人を刺殺した
虚言と自己弁護 亡矢野真木人殺害を警察で否定した
亡矢野真木人殺害の殺意を裁判(第1回公判)で否認した
7) 「統合失調症」と「強迫神経症」を二重診断した誤診
被告病院長は「統合失調症と反社会性人格障害は二重診断できない」と断言しましたが、被告病院長が被告純一に下した「統合失調症と強迫神経症」の二重診断は、多くの医師が「誤診である」との見解を有しております。被告病院長は他の医師が事前に反社会性人格障害の診断をしてないことも根拠にあげていますが、それらは被告病院長の医師としての資質の不足を露呈しています。なお、被告病院長は「統合失調症と反社会性人格障害は二重診断できない」理由として、国際的な精神障害の診断書であるICD-10及びDSM-Ⅳの記述が一致していないことも根拠にあげていますが、いずれの診断基準書も統合失調症と反社会性人格障害は二重診断できないと言っておりません。
8) アネックス棟の管理体制はおかしい
被告病院は「(アネックス棟は)開放病棟ユニットであり、運営と管理のためアネックスの管理マニュアル等は医師だけでなく看護師や他のスタッフも交えて策定している」とアネックス棟に独立した病棟規則が存在していると証言しました。それにも関わらず、被告病院長は被告純一が入院していた個室の場所を、第2病棟、アネックス棟、アネックスなどと巧みに言葉を転換して使用して証言内容を移動させており、欺瞞的な態度が認められます。
被告病院は公式の病院組織と実態がかけ離れています。現実にはアネックス棟は第2病棟の一部として運用され独自の管理運営は行われておりません。アネックス棟のナースコーナーには看護師1人が配置されていると被告病院は主張しますが、担当看護師がアネックス棟にいると「ずるをしている」と、第2病棟の他の看護師に嫌みを言われる実態があります。また被告病院の公式ホームページ(http://www.iwaki-hospital.or.jp/)では、当時36才の被告純一が入院していたアネックス棟の3階は「児童思春期心のケア病棟」であるし、現実には「痴呆性老人を主に収容」した中央棟3階の第2病棟は「ストレスケア病棟」と表記されています(下図参照)。被告病院は言っていることと実際の運営の間には大きな解離が見られます。これが被告病院の欺瞞です。
9) 人権の守護者を振りかざして、極論から極論に走っている
アネックス棟では、被告純一にエレベータの暗証番号が教えられており院内フリーの処遇と相まって、被告純一の所在を確認することができないという、実質的には管理を放棄していた状態でしたが、被告病院は「正しい管理体制が敷かれていた」と強弁しました。その上で「人権」という言葉を振りかざしています。精神科の病院が入院患者が抱いているかも知れない「自傷他害の危険な兆候」を、あり得ることとして常に注意を払うことが人権侵害でしょうか。被告病院は病院の管理がおざなりで患者を治療せずに放置していた実態を、あたかも何もしないことが自由と人権の擁護であるかのように言って、問題の本質を覆い隠そうとしており、悪質です。そもそも被告病院長は事実認識を間違えています。自分自身が精神科の病院を運営しておれば、それで無条件に善良な立場が自動的に与えられると考えるのは間違いです。私どもは被告病院長に、法律と適切な医学的知識に基づく正常な病院運営と精神障害者の人権の擁護を求めているのです。その上で、被告病院の過失に起因する殺人事件の原因の確定を求めます。
最後に
「精神科に入院中の患者が外出中に殺人を犯したという事実」は「精神科病院にとっても社会にとっても不幸なことである」という前提を被告病院は社会的常識として共有していません。被告病院には、「精神科である被告病院に入院中の患者が外出して殺人を犯した」という事実が持つ重大な意味について、社会に貢献する医療機関という立場から再考することを切に希望するものです。
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