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高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失


平成27年3月2日
控訴人:矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


6、本件裁判で築く国際標準の精神科開放医療


1. 法廷は日本の精神科開放医療を促進できる

いわき病院のような、ほったらかしの医療でも責任が問われない構造があってこそ、日本の精神医療の改善が遅々としているのである。本件裁判では、その遅れを生み出している当事者の精神科医師本人および代理人弁護士と鑑定人大学医学部教授が、「日本の精神科開放医療の遅れが裁判によって生じる」と主張している。これは医師、弁護士、大学教授として、職務の本分に照らして公正でない。卑しく、また、たちの悪い冗談である。精神科開放医療の基本は事実に基づいた普遍的な人権擁護である。日本の精神医療の遅れは、精神障害者の人権を尊重しているとは国際的に認められない、入院医療の実態にある。精神科開放医療の理念ではない。いわき病院で発生した事実に基づいて過失認定を行うことで、日本の真の開放医療は実現する。



2. 本件裁判の国際性

本件裁判で国際的標準にかなう精神科医療を標榜したのはいわき病院である。しかし、いわき病院が推薦した鑑定人が「英国では」と主張しても、いわき病院で英国並みの水準と責任感を持った精神科医療は実現しない。日本国内で行われた既存の判例や慣例を乗り越えた判断が本法廷で行われ、他の先進諸国が実現している精神科開放医療を日本でも促進する礎を築くことは控訴人側と被控訴人側に共通する願いである。本件裁判は、精神科医療の国際的常識眼で展開している。控訴人は、本件裁判を提訴した時から、世界に通用する人権認識が本件裁判で実現することを願っている。このため、本件裁判に国際的な精神科医師鑑定団を招へいし、同時に情報を国際化してきた。



3. 裁判の結果として普遍性がある精神科開放医療の実現を願う

1)、裁判の目的

控訴人が本件裁判を、矢野真木人が殺人された事件当日から9年以上の長期に渡って裁判を維持し、協力者を国際社会に求めてきた理由は、日本で国際水準にかなう、精神医療が実現することを願うからである。控訴人は矢野真木人がこの世に生を受けて生きた意味を後付けであっても良いので与える事を模索している。控訴人は、それは、矢野真木人が死ぬに至った原因を解明して、社会の改善に資することであると確信する。


2)、精神科開放医療に犠牲者は必要ない

矢野真木人が殺人された直後に「精神障害者は不幸な人生を通して罪を償っているので、忘れなさい」と言われた。この様な理由で、健常者の生命が奪われることを社会が容認してはならない。「精神障害者は罪を償っている」という考え方は間違いである。精神障害は犯罪ではない。精神障害を犯罪と同一ととらえることは、精神障害者の人権を安易に制限や無視する理由となり間違いである。人間は社会集団として、統計的に生起率の関係で、精神障害は発生し得る。精神医療はその不幸を背負った人々に社会として治療的改善と人道的処遇を果たすべき手段である。そこに、生まれつきで罪を背負った人間であるとか、健常者に生命の犠牲という交換条件を持ち込む論理は必要ない。


3)、真面目で誠実な精神科医療

いわき病院で判明した課題は、精神障害者に容易に心神喪失無罪という法的権利の免除が容認されることに安住した、精神障害を患った人間の法的権利否定である。日本で、精神障害者の社会参加が促進されない根本的な理由は、安易に精神障害者の人権を否定することを容認する現実があるからである。控訴人は真面目で誠実な精神科医療が普通になる事を求める。その第一歩は、不真面目で、精神科医療を非誠実に行い事故を発生させた精神科医療機関に過失責任を問うことである。


4)、精神障害者は危険という前提は誤り

精神障害者は危険という前提や認識は間違いである。精神障害者の自傷他害などの行動を予見・予測し、医療的に保護をしながら、病状の改善を促進することは可能である。それが、日本で実現すべき、精神科医療の国際水準である。いわき病院で明らかになったことは、精神科医師や看護師が、自らの医療技術を磨かず、思い込みの治療知識や精神薬理知識のままで、精神障害者野津純一氏の治療を蔑ろにしていた事実である。精神科医療が誠実に対応しておれば、野津純一氏は殺人者になることはなかった。精神科医療を誠実に行えば、精神障害者による殺人事件数が減少することは英国で立証されたことである。


5)、日本人の誇り

「精神障害者は危険」という認識は、日本の精神科医療関係者の怠慢と、不作為や義務違反を弁明するための、詭弁である。この様な弁明がまかり通ることにあぐらを掻いている日本では、精神科医療は国際水準を達成できない。

控訴人は本件裁判を通して、日本人に国際社会で誇りを増進・拡大してもらいたいと希望している。精神障害者の社会参加の拡大は、日本の人権問題である。人権とは犠牲を他者に押しつけるものではない。人権とは、あまねく全ての者に平等かつ普遍する権利である。日本は、その事で、国際社会で名誉を拡大することができる。これが、控訴人矢野夫妻が本件裁判を控訴人野津夫妻に呼びかけて、共同原告として行ってきた理由である。

控訴人矢野は死せる矢野真木人の代理人である。矢野真木人には、自分が命を失うに至った理由から、発言する権利がある。死人に口なしではない。矢野真木人の無念の思いが日本社会の改善に役立つことがあれば、控訴人として本望である。



   
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