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高松高等裁判所平成25年(ネ)第175号損害賠償請求事件
いわき病院の精神科医療の過失


平成27年3月2日
控訴人:矢野啓司・矢野千恵
inglecalder@gmail.com


5、地裁判断の間違い


7. 地裁判決の誤り箇所


1)、判決P.102 「最終的に強迫症状を有する統合失調症として治療していた」は誤りである

渡邊朋之医師は、平成17年11月23日から抗精神病薬プロピタンの定期処方を中止して統合失調症の治療を何もせずに中断状態を放置した。インタビューフォームによるとプロピタンの代謝は極めて早く、中止後2週間経過して薬効が残存していた可能性は無く、IG鑑定書(1)(乙B15号、p.18 )は誤りである。抗精神病薬プロピタンの突然中止によるリバウンドや再燃についてもIG鑑定人は触れておらず、精神科医師として矜持がない。従って「統合失調症として治療していた」は判決の錯誤である。また、パキシルに代えて投与した抗うつ薬ノーマルンは最低有効量(75mg)の10/75、また最低常用量(150mg)の10/150しか処方せず、強迫性障害の治療もできていなかった。


2)、判決P.105 「純一の過去の既往歴を純一も両親も渡邊に十分伝えていなかった」「渡邊の突っ込んだ質問に対して、回答を拒否する傾向があった」はいずれも誤りである

父親は入院前問診で暴力既往歴についてHB医師に申告したが、いわき病院はこの頁を診療録の証拠提出から除外してあった。入院時に、母親も放火暴行履歴をソーシャルワーカーに話した。野津純一氏も主治医交代時の問診で「25才 一大事が起こった」と申告した。渡邊朋之医師は野津純一氏の放火暴行履歴を知りながら、統合失調症と強迫性障害の治療をせず、放置し、診察拒否までしたのである。


3)、判決P.106 「甲B15は乙B15」、また「甲B17は乙B17」の誤り



4)、判決P.107 「プロピタン中止後はコントミンを含む頓服を時々出したから当時の判断として不合理ではない」は誤りである

抗精神病薬はある一定の血中濃度が保たれないと抗幻覚妄想作用と異常行動抑制作用が無効である。当時も常識であり、判決の誤りである。


5)、判決P.108 「処方中止後の症状について経過観察を行っている」は誤り
判決P.109、P.110、P.111、P.115 医師による病状変化への問診記録がないにもかかわらず経過観察したというのは医師法違反の判決である

地裁判決が認定した医療記録が存在するという事実は看護記録であり、医師が診察した診療録の裏付けがない。看護師は医師の観察を補佐することは可能であるが、それが医師による治療が行われた証明とはならない。地裁は、裏付けがない判決をおこなった。地裁判決は、精神科臨床医療で非医師の医業(医師法17条)や無診察治療(医師法20条)等を促進することになる。渡邊朋之医師はそもそも診療義務違反(医師法19条)である。


6)、判決P.111 「プラセボ効果がある旨判定されている」は医師法違反

看護師による「プラセボ効果あり」の記述は、医師による問診、診察、カルテ記載がなければ「判定」ではない。医師法違反の判決である。


7)、判決P.111 「同月3日(11月30日に訂正された)以降も身体が動くなど症状を訴えたことが診療録や看護記録に記載され」は誤り

看護記録に記載はあるが、診療録に記載はない。


8)、判決P.111 「渡邊による診察も定期的になされていて」は誤り

渡邊朋之医師の診療録記載は「生食20ml承認サインが1回」あるだけであり、問診も診察も行っていない。12月6日の「先生にあんのやけど」の訴えは悲惨である。診察が無かったことは明らかであり、いわき病院も「渡邊が診察した」と主張したことはない。判決のいわき病院に優しすぎる「誤認」である。


9)、判決P.112 「純一に対して統合失調症や強迫神経症による精神症状の治療が施されており」は偽りである

統合失調症の治療は中断され、強迫神経症の治療も有効量ではなかった。


10)、判決P.112 「1年以上粗暴行為は見られず、普段、単独外出を行っていた判断は不合理ではない」はレトリックである

原告(控訴人)は11月23日以前の外出許可については問題としないが、統合失調症の治療を中止した11月23日以降は状況が異なると主張している。


11)、判決P.113 「純一の異常行動を予想することは当時は困難であったと言わざるを得ず」は判決の誤りである

抗精神病薬の定期処方は突然中止されていた。従って野津純一氏に異常行動がでることを予測することは当然であった。またパキシル突然中止による病状悪化は当時既に添付文書に記載があり、予測困難ではない。


12)、判決P.113 「3対1看護が行われており精神病患者の精神疾患の悪化には注意が払われており」は正しくない

いわき病院第2病棟の看護師は顔面の火傷(根性焼)にも気付かないほどの観察力だった。その水準の看護師でも「純一は何かおかしい」と感じて渡邊朋之医師に診察願いを出したが、渡邊朋之医師は「病状が悪化するはずがない」と決めつけて診察拒否をした。主治医が頭ごなしに拒否していては、チーム医療は機能しない。


13)、判決P.114 「根性焼ができた具体的な時期や程度について検討しても不明と言わざるを得ず、被告病院の看護師などがこれを見落としたとまでは断定できない」はレトリックである

根性焼は警察調べ(12月7日写真撮影)(検察官番号甲10)の3〜4日前であり、複数の赤い瘢痕と黒化が進んだ古い瘢痕が確認された。看護師が見落としたことは確実である。野津純一氏の顔面左頬に根性焼が目撃されて確認された以後25時間にわたりいわき病院内に居たが、看護師も医師も全員が見落としていた。「看護師などがこれを見落としたとまでは断定できない」は明白な誤認である。


14)、判決P.115 「11月23日の処方変更後も症状の大部分は従前とほぼ大差のないもの」は誤りである

いわき病院の診療録に何の記載もないにもかかわらず、判決が勝手に断言できる根拠はない。判決はSG鑑定意見(p.4〜18、検察電話聴取p.1〜2)に書かれた「事件前の純一の病状悪化」を否定しており、誤りである。


15)、判決P.115 「事後的に見れば、異常行動の予兆ということはできても…」は誤りである

事件前も、地裁判決当時も、「統合失調症治療ガイドラインに従わず、パキシル添付文書の「重要な基本的注意」にも従わなかった後の病状悪化」は当然予想できたことである。


16)、判決P.115 「被告渡邊は12月4日に純一からアキネトン筋注を求められた際に生食筋注しか行っていないが・・」には、渡邊朋之医師が自ら生食筋注を行ったかのように書いてあるが、判決の事実誤認である

地裁判決(p.115)は、引き続いて次のパラグラフに記載がある「渡邊は12月3日(11月30日に訂正)を最後に直接純一を診察せず」が正しい。


17)、判決P.115 「12月5日には内科医が診察を行っており」は誤り

MO医師がレセプト承認ではなく、診察した証拠と根拠はない。


18)、判決P.115 「強迫症状についても、不潔嫌悪を強めていたことを病院関係者に告げていなかったことからすると」は誤認識

三環系抗うつ薬ノーマルンの投与量は最低常用量の10/150で、有効量に達しておらず、不潔嫌悪を強める状況であった。看護師の観察記録が無いことを、積極的な事実としたことは間違いである。


19)、判決P.115 「外来診察中の渡邊が外来を中断して純一を診察しなかった、診察予定者の中に加えて純一を診察しなかった(診察拒否に)過失はない」は誤りである

複数の向精神薬を同時に突然中止した主治医には、統合失調症の病状悪化及び強迫性障害の病状悪化は予測できたことである。従って、対応しなかったことは過失である。


20)、判決P.116 「開放病棟において帰院する患者を見逃すことのないよう必ずチェックを行う体制を構築していない限り看護に責任は無い」は不適切である

原告(控訴人)は「帰院時に厳格に確認する体制」を求めてはいない。12月6日の犯行後の野津純一氏の様子から、いつも会う母親を追い返し、夕食と朝食の2回も食事を取らず、「警察が来たんか」と言っておびえる患者の様子をいつもとは違うと思わず、気がつかない看護体制の問題を指摘している。


21)、判決P.116 「根性焼の発見は根性焼の程度や観察方法によって左右される」「純一は暗褐色上衣着用し返り血の付着も多くなく、長時間にわたって見逃したわけではない」したがって「患者管理、外出許可に過失相当ではない」は不適切である

患者の顔の傷が観察方法によって左右されるは不適切であり、顔を正視する精神科看護の基本を無視するものである。また、衣服に付着した返り血についても、多量でなかったから気付かなくて良いとして粗雑な看護観察を容認した。患者が沢山の異常サインを出していても、警察から連絡があるまで気付かないは、能天気に過ぎる。これは看護放棄であり、そのような怠慢を支持した判決は間違いである。



   
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